親父が連れてきた謎の女

そんな親父が5人家族から離脱したのは、俺が小学校3年くらいのときだ。当然、離脱の原因も女絡み。

俺は親父が家族から離脱した日の出来事のことを、「家取り戦争」と呼んでいる。

2000年10月。

どのくらいの期間だったか詳しくは覚えていないのだが、いっとき親父が家に全く帰ってこない期間があった。

あるとき、夜7時くらいだっただろうか、親父の車の音が聞こえた。その後“ジャッ、ジャッ”と、駐車場のあたりに敷いてある砂利を踏む音が聞こえてくる。これは、俺の中で親父が帰ってきたサインだった。俺は親父を出迎えるために玄関へと向かい、玄関扉を意気揚々と開けた。だが、そこには……

見知らぬ襟足の長い子どもが2人。

と、赤ちゃんを抱え、ダボッとした服を着た、茶髪か金髪かわからない髪のヤンチャそうな30歳前後のねーちゃんが立っていた。

「……いや、誰よ」

と、ツッコもうとしたそのとき、そいつらが突然、全員でズカズカとうちに上がり込んでくる。

騒ぎを聞きつけ、我が家の家族が玄関に集まる。家族全員が混乱していると、ヤンチャそうなねーちゃんの後ろから、ゆっくり堂々と、親父が現れた。

そして、親父は開口一番、

「俺は今日から、こいつらとこの家で住む!」

と言うのだ。

親父は俺の知らないあいだに、このヤンチャそうなねーちゃんと結婚していた。親父は、ヤンチャそうな新妻と、その連れ子と、もしかしたら俺の腹違いのきょうだいかもしれない赤ん坊とで、この家に住む気のようだ……。俺が理解の電車に乗り遅れていると、

「ふざけないで!」

と怒号が聞こえた。

鋭い目で親父を睨みつけた親父のお姉ちゃん

最初に親父に噛みついたのは、親父のお姉ちゃんだった。メガネ越しに、鋭い目で親父を睨みつける。

親父の姉ちゃん、つまり俺にとって伯母さんにあたる存在。

俺は伯母さんのことを「かっちゃん」と呼んでいたから、ここからは「かっちゃん」と呼ばせてもらうが、かっちゃんは俺にとって母親代わりの存在だった。

いつもガミガミ言いながらも朝起こしてくれたり、朝飯に牛乳とパンを用意してくれたり、飲むと学校でうんこしたくなると思い込んでいたから、飲みたくなかった牛乳を半ば無理やり飲ませようとしてきたりする、そんな人だった。

そんなかっちゃんが親父に、

「急にこんな大人数、一緒に住めるわけないでしょ!」と怒る。が、親父は、

「いやいや、一緒に住むとか言ってねーから」

と返す。かっちゃんが「は?」と親父に漏らす。親父は、

「この家は俺のもんだから」

と。爺ちゃんにも婆ちゃんにもかっちゃんにも、家から出て行けと言うのだ。この家の契約者は親父だから、新しい家族だけでこの家に住むというのが親父の言い分だ。俺がその新しい家族に入っていたのかどうかは定かでない。

かっちゃんがあまりのことに唖然としていると、今度は婆ちゃんが、

「○▼※△☆▲♨◎★●!!!」

と、怒り狂った。もはや全くなにを言っているのかはわからないが、なにやら怒り狂った。

婆ちゃんは、ちょっと小太りで、とにかく喜怒哀楽が激しい。そして“自分ルール”がいくつもある、孫の俺が言うのもなんだが、変人婆さんだった。

そんな変人婆さんが、もはや何語かもわからない言葉で怒り狂う。それに対して、親父の新妻であるヤンチャねーちゃんは、

「は? うるせーし! 黙って出ていけよ!」

と、初対面とは思えぬ暴言で言い返す。

もう玄関で大モメ。旧菅野陣営と新菅野陣営との激しい舌戦が繰り広げられた。ヤンチャねーちゃんは「この家はもうあっしのもんなんだよ!」と当然のように激ヤバ主張をする。