家から追い出されそうになる旧菅野陣営
親父のことだ。どうせヤンチャねーちゃんに、
「俺の女になったら家をやるよ。家族まとめて俺の家で面倒見てやる」
とでも言って口説いたのだろう。ほんとに勝手な人だ。残った俺らはどうするんだ。
ただ、親父が契約者ということは事実なようで、契約書も存在することを主張され、俺たち旧菅野陣営は、だんだんと劣勢を強いられていく。
このときの俺は、何が起こっているかまではハッキリわかっていなかったが、「なにやらわけのわからない連中と親父に家を取られそう」ということだけは理解していた。
旧菅野陣営が劣勢のなか、俺もなんとかせねばと思い、
(この襟足の長いガキどもは、最悪、俺が片付けるか…!)
と、ガキどもを睨みつけた。だが、睨み返されたので視線を外した。
そのときだった。
「いい加減にしろ!!!」
鬼の形相で、聞いたこともないほどの声量でブチギレたのは、爺ちゃんだった。
爺ちゃんの活躍により「家取り戦争」は終結
爺ちゃんは、普段は寡黙で、基本、何も話さなかった。
だから、正直、爺ちゃんのそんな大声は、後にも先にも、このときしか聞いたことがない。おそらく親父もそうだったのだろう。いや親父だけではない。家族全員がそうだったのだろう。
菅野家が、一瞬の静寂に包まれる。
爺ちゃんの見たこともない形相と大声に、さすがの親父も怯む。
その後、爺ちゃんは契約書について親父に何やらボソボソとつぶやくと、親父は新しい家族を連れて、すごすごと引き下がっていった。
(爺ちゃんスッゲー!)
俺は心の中で興奮した。まさかあの親父をたった一言で退けるなんて。さすが親父の親父だ…!
こうして菅野家の「家取り戦争」は爺ちゃんの大活躍により終結。
そこから親父は、たま~~~に家に帰ってくるだけで、ほとんど家にいることがなくなったのだ。
ちなみに、親父の新しい家族が、その後どうなったのかは全く知らない。でも、親父はその後も女遊びをやめた様子はなかったので、おそらくうまくいかなかったのだろう。