「エリアマネジメント」が求められている

昨今、欧米のトレンドの影響もあって、日本でも「エリアマネジメント」という言葉がまちづくりの業界でバズワードになっています。

一言でいえば、民間セクターの団体が「地域の治安を維持するとともに、地域価値を高めていく一連の活動」のことを指します。特定の地域や街区(がいく)単位で、道路や公園といった公共空間を含めて清掃や警備、修景事業、各種イベントなども行います。

「それは役所あるいは町内会の仕事でしょう?」というのが今までの常識かもしれません。しかし、公共空間を杓子定規に管理すると「みんなの公共空間」だったはずが禁止事項だらけで、「誰のためにもならない公共空間」になってしまうという問題が生じます。

それぞれの地域実情に合った形で、公共空間の使い方を地域に委ね、もっと多様な使い方ができるように「開いて」いく。副次的には、公共空間の管理コストが下がり、場合によっては公共空間で一定のルールの中で行った収益事業の一部を還元してもらい、ケースによっては全く税金を投入しなくても公共空間の維持や質的向上が図れる場合もあります。

エリアマネジメントの先進地である欧米では、「BID(Business Improvement District)」という制度が確立されています。BIDとはエリアマネジメントを行う特定のエリアに不動産を所有するオーナーから資金を出してもらって、それをベースに特定のエリアマネジメント団体がワンランク上の街並みづくりや治安維持、イベント展開などを行う制度です。

オーナーにとっては、税金に加えてBIDの負担金が取られるので反対する人もいると思われるかもしれません。しかしこの活動によって地域価値が上がり、さらに居住者、来街者、就業者の増加につながれば、最終的には土地、建物を保有し、商売をしているオーナーの元へと資金が還流するのです。

一般的に特定地域内でこうした活動を行おうとすると、ヒト、モノ、カネ、情報といったあらゆる経営資源に事欠くことが常です。その中でも資金調達が一番の課題となります。残念ながら先立つものがないと、ワンランク上のまちづくりはできません。

国内でも「日本版BID」を創設しようという機運が高まっており、国、自治体でも議論が活発になっています。2018年6月には地域再生法の改正により、特定地域の3分の2以上の事業者の同意が取得できれば市町村が活動費用に相当する資金を事業者から徴取して、エリアマネジメント団体に交付することができる「地域再生エリアマネジメント負担金制度」が創設されました。

開発にはスピードとバランスが必要

しかし、日本国内でエリアマネジメントの成功事例と言われているのは、「大手町・丸の内・有楽町地区(いわゆる大丸有)」のように大企業が構成要員で居住者がほぼ不在の都心エリア、札幌のように行政側の強力なサポートがある地域が中心で、特に郊外部で地域住民中心の場合はなかなか成功している事例がないのが実情です。

武蔵小杉にはすでに「NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント」という団体が組成されており、タワーマンション住民や地域団体のキーパーソンなどを中心に活発に活動をしています。とはいえ、新たに街の住人の数が増え続け、マンションエリアも拡大している武蔵小杉においては、まだ課題山積というところでしょう。

今は勢いのある武蔵小杉ですが、一気に出来上がった街ですので、あと30~40年も経過したらタワマンの建て替えや高齢化の問題なども表面化するでしょう。

武蔵小杉の事例を見るにつけ、改めて開発にはスピードとバランスが大事だと感じます。東急は鉄道事業を抱えていることもあり、デベロッパーとして比較的中長期的な視点に立って物事を考えることができる数少ないプレイヤーです。

少なくとも東急沿線内においては、自分たちがやった仕事に対して、「短期的に稼いだから後は知らない」という無責任なスタンスは基本的には取れないのです。