名古屋は昔から冠婚葬祭を派手にすると言われていて、嫁入り道具も豪華なわけですが、じつはこれは財産分与を兼ねているという。県民研究の第一人者である矢野新一氏が、そこに隠された名古屋人の恐るべき節税術を明らかにする。
※本記事は、矢野新一:著『名古屋はヤバイ』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。
格式や家の体面にこだわる名古屋人
名古屋は昔から、格式や家の体面にこだわるため、冠婚葬祭は派手でした。「名古屋から嫁をもらえ」「名古屋には嫁にやるな」という言葉もありましたし、「家を持たない男は一人前ではない」「娘が3人いると家がつぶれる」ともいわれてきました。
結婚式や嫁入り道具の凄さは、昔ほどではありませんが、それでも全国では上位といって良いでしょう。今でも結婚式場は派手です。
名古屋では今でも紅白幕を掲げたトラックを見ることがあります。これは嫁入り道具を運んでいるトラックなのです。紅白幕を掲げているのは、嫁入り道具を運んでいることを周囲に知ってもらうため。嫁入り道具を運ぶトラックがバックすることは出戻り、つまり離婚を想像させるので縁起が悪いとされています。
運転マナーが悪いと評判の名古屋でも、道幅の狭い道路で紅白幕のトラックを見かけたら、バックさせないようによけなければなりません。もし、路上駐車の車などがあったらどうするかが気になりますが、その場合は祝儀を渡してでもどいてもらうのでしょう。決してバックはしません。
豪華な嫁入り道具は財産分与を兼ねていた
結婚に付きものの菓子まきは、新婦の親戚一同が実家の屋根に上がり、集まった近所の人達にお菓子をまくもの。最近ではお菓子のパックを近所に配り、菓子まきを簡略化する傾向になっています。それでも名古屋では、結婚式や嫁入り道具にお金をかける傾向が強く、普段は節約しても、晴れの日にはパッと盛大にという考え方が根強いのです。
実はこの豪華な嫁入り道具は、財産分与を兼ねているともいわれています。
通常、親が娘に500万円を手渡せば贈与税がかかりますが、嫁入り道具に関しては社会通念上相当なものであれば贈与税がかかりません。仮に500万円分の財産を家財道具として娘に手渡せば、究極の節税になります。さすがに、お金に細かい名古屋人は考えることが違うと感心してしまいます。
もっとすごいのは、名古屋のお金持ちがしていると噂の贈与税の基礎控除。現在の法律では、贈与税の基礎控除額は110万円と定められています。したがって、一人あたり年間110万円までの贈与をしても、贈与税は課税されません。
この仕組みを利用して、毎年配偶者や子供、孫などへ、110万円の範囲内で贈与を続ければ、相当額の財産を相続の課税対象から除外することができるのです。