JR中央線東小金井駅から徒歩6分。南口の駅前商店街を抜けて一筋西に入った住宅街の一角に、その会社は忽然と現れます。この会社こそ、経営品質協議会主催の「日本経営品質賞」を史上初めて2回受賞し、中小企業の経営者から圧倒的な支持を得る経営改善サービス「経営サポート事業」を展開する株式会社武蔵野。同社を率いるのは“中小企業の星”こと稀代の名物社長・小山昇氏が語る、これからのリーダー論とは――?
歌舞伎町のネオンが大好物のカス社長です(笑)
私が社長を務める「株式会社武蔵野」は、ダスキン事業〔東京都武蔵野エリアを中心としたお掃除用品・お掃除サービスのフランチャイズ〕を基盤とし、中小企業の経営サポート事業を行っています。
私が武蔵野の社長になったとき(1989年)、わが社は沈没寸前、倒産寸前でした。
社員は毎日、のんべんだらりと過ごしているだけ。幹部社員の半分は、腰掛け気分で入社したアルバイト上がり。おまけに社員の5分の1は元暴走族で、一見真面目に見えるが「どうやったら不正できるか」ばかり考えていたものばかり。警察にお世話になった社員も数知れず(笑)。
そんな超ブラック企業だった武蔵野は、現在、超ホワイト企業に変わっています。
社長就任時に7億円だった売上高は、現在75億円。経営サポート事業を立ち上げ継続的に売上を伸ばし、18年連続増収を達成しています。
武蔵野の成長を牽引した実績から、私のことを「カリスマ社長」「経営の天才」「中小企業のスター」と呼ぶ人もいます。
ですが私は、「カリスマでも、天才でも、スターでもなんでもない」と自覚している。
わが社は社員の適性を測るため「エナジャイザー」という診断ツール〔仕事の処理能力、適正業務、意欲、上司との相性などがわかる〕を導入しています。
診断の結果、小山昇の能力は108。この数値は、武蔵野の全社員のブービー(もっとも能力の高い社員の半分以下)です。とても天才的とは言い難い。高校の成績も平均以下。ギリギリの成績でなんとか大学に入学し「9年」かかって卒業しました。
失敗の数も、失敗の損失額も尋常ではありません。普通の社長が束になっても敵わないほど、バラエティに富んだ失敗を数多く経験しています。
また、かつての私は歌舞伎町のネオンが大好物でした。終業後は一目散にキャバクラに直行し「夜のアルコール消毒」に勤しんでいました。
結婚する前は〇億円、私の妻の試算によると、結婚してからは4億8000万円も歌舞伎町に寄付していたそうです。もちろんすべて自腹です。
能力の低さと失敗の多さ、そしてキャバクラ好きとなれば、私はカリスマ社長どころか「カス社長」と呼ばれるにふさわしい(笑)。
自分が経験したこと(成功&失敗)を教訓として伝える
「スター」とは、人ができないことをやる人のことです。一方、人ができることをやる人は、スターを目指してはいけない。「リーダー」になるべきです。
カス社長でありながら武蔵野を引き上げることができたのは、私がスターではなく、リーダーとしての条件を満たしているからです。
私が考える「できるリーダーの条件」とは、主に次の3つです。
【できるリーダーの3つの条件】
- 自分が経験したこと(成功&失敗)を教訓として伝える
- 人よりも早く気づき的確な指示を出す
- 成果が出るまで誰よりも粘り強く汗をかく
私がリーダーとしての手腕を発揮できるのは、誰よりもたくさん失敗をして、経験値を積んだからです。損失3億円規模の失敗が3回、1億~2億円規模のものが5回、それ以下は数限りない。新しい取り組みの9割は失敗です。
「失敗の数」=「リーダーの実力」です。なぜなら、失敗の数が多いほど、修羅場を切り抜けた経験が多いからです。痛い目をみた人でなければ「どうしたら、できるようになるのか」「どうしたら、失敗するのか」を人に伝えることはできない。
「できるリーダー」になるために必要なのは、成功体験ではありません。“失敗が9割”です。
成功が9割の社員と、失敗が9割の社員がいれば、後者を評価する。それが武蔵野です。1回の成功を手に入れるためなら、9回失敗してもいい。それが武蔵野です。
わが社は「今までのやり方で成功した人」より「新しいことに挑戦して失敗した人」のほうが評価は上です。なぜなら、人間は失敗からしか学べないからです。
そして、経験してきたすべての失敗から教訓を引き出し、その教訓を部下に伝えるのがリーダーの役割です。
史上最短(入社9ヵ月)で小嶺淳が課長になれたのは〔現在は採用本部長〕、入社してすぐに始末書を書いたから。始末書を書いたりクレームを出したりと、大きなことに挑戦し失敗したことを高く評価したからです。
※本記事は、小山昇:著『できるリーダーは失敗が9割 自分史上最高の営業利益を手に入れる「仕事」の極意』(マガジンハウス:刊)より一部を抜粋編集したものです。