経済政策については模範的だったアメリカ
一方、日本と対照的なのがアメリカのトランプ政権です。
トランプ大統領は、感染流行の初期段階で大規模な財政出動を計画し、3月27日の時点で国民への現金支給や企業支援を柱とする、2兆ドル(約220兆円)規模の緊急経済対策法を成立させています。日本の「事業規模208兆円(真水14~15兆円)」と違い、ほとんど真水の2兆ドル(アメリカのGDPの1割に相当)です。
また、それに先立つ3月23日には、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)のパウエル議長が、無制限の国債購入・無制限の資産購入を決め、いくらでもドルを刷る用意があることを国内外に向けて発信しました。いわゆる無制限の量的緩和〔通貨の発行量を一定期間増やし続ける政策〕です。
他にもトランプ大統領は、最大3千億ドル(約32兆円)規模の減税など、さまざまな対策を打ち出し、4月末時点で総額約3兆ドル(約320兆円)の過去最大の財政出動を決定、今後さらに議会と話し合い「超党派」で、その規模を拡大していこうとしています。
このトランプ大統領の決断力と経済センスは、すばらしいと思います。
私は3月の株価暴落の時点から、一貫して財政政策と金融政策の一体化が必要だと、産経新聞の連載等で主張してきました。すなわち、日銀は無制限に国債購入を増やし、それによっておカネを刷る。そのおカネを財源に政府は財政支出を拡大し、財源に制約されずに必要な政策を、どんどん打ち出していくべきだと訴えていたわけです。
それを実行しているのが、まさにアメリカのトランプ政権だと言えます。前述の通り、パウエル議長が「ドル資金をいくらでも発行します」と、無制限の量的緩和を宣言するのと合わせて、ホワイトハウスは大型の財政出動を打ち出していきました。財政政策と金融政策の両輪を大胆にフル稼働させています。
これだけのことをすれば、一時的にせよ財政赤字が急激に膨らんでいくのは明白です。しかし、トランプ政権の一連の政策からは、民間の余っているおカネ〔消費や投資や雇用に使われずに委縮して凍ってしまったおカネ〕を政府が吸い上げて、当座の個人・企業支援や景気対策、感染拡大防止対策に使い、甚大なダメージを受けた経済活動を修復して、景気のV字型回復につなげていく、という“道筋”が見えます。
財政と金融の思い切った拡大によって、初めてそれが可能になるわけです。
同時にそれは、今後の実行を裏付ける力強い“メッセージ”にもなっています。また、トランプ大統領がこれらの政策を打ち出した“スピード”も、リーダーとして申し分のないものでした。
メディアを含め日本側には、トランプ大統領がこうした「まともな経済政策〔=経済学に基づく理にかなった政策〕」を実施している、という見方が乏しいように思えます。
アメリカは結果的に、感染症による死者の急速な拡大を防ぐことはできなかったのですが、緊急時の経済対策に関しては模範的で優秀な対応をしたと思います。一方、日本は感染症死者の増加を最小限に抑えることはできましたが、緊急時の経済対策(特に初期対応)に関しては、あまり褒められないものでした。反省を今後に活かすためにも、この点をはき違えてはいけません。
アメリカはコロナ・ショックを乗り越えれば、引き続き「まともな経済対策」によってV字回復を実現できる見込みがありますが、日本は予断を許さない状況です。隙あらば緊縮財政・増税路線に回帰しようとする、財政均衡論者がウヨウヨいるからです。
アメリカでは、コロナ後に増税を言い出すような“馬鹿者”は政府中枢にいませんが、残念ながら日本にはいる恐れがあります。何しろ、東日本大震災後に復興特別税を設けたという“前科”があります。
本来なら国債発行で復興費用をまかなうべきところを、未曾有の大災害から立ち直ろうと頑張っている国民に対し、増税で対応したわけですから“狂気の沙汰”としか言いようがありません。
財務官僚をはじめとする彼ら財政均衡論者の存在そのものが、日本経済のV字回復の不安要素なのです。
※本記事は、田村秀男:著『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。