説得力のないメッセージで国民の不安が広がった

振り返ってみると、安倍政権の緊急経済政策には、根本的な問題として“スピード”と“メッセージ”そして景気回復への“道筋”が欠けていました。

コロナ感染流行初期の対応として一番大事なのは、景気対策とコロナ感染拡大防止策が一体化していることであり、最優先すべきはコロナ感染拡大を食い止めることです。

そのために国民に外出を自粛してもらう必要があるならば、政府は企業の大小を問わず、社員がオフィスに来なくても自宅で仕事ができるよう、テレワーク環境の整備の支援をしなければなりません。

それと並行して、ヒトが足を運ばなければ売り上げが減少して経営難につながる中小零細企業に対しては、休業補償を明確にすべきです。また、休業や外出自粛によって収入が減ってしまう各家庭や個人に対しても、ひとまず生活を支えるのに十分な額の現金給付も行う必要があります。

これらを迅速に実行するよう宣言し、必要な真水の予算を用意することで、国民に対して「我々はこういう“道筋”で人々の雇用を守り、企業の倒産を防ぎ、同時に感染拡大も食い止め、落ち込んだ景気のV字回復を目指していきます。だからみなさん安心して外出を自粛してください」というメッセージを、明確に伝えることができるのです。

▲説得力のないメッセージで国民の不安が広がった イメージ:PIXTA

4月7日になって、ようやく政府が打ち出した緊急経済対策は、そうしたメッセージ性が非常に乏しいものでした。そもそも「世界最大級の事業規模108兆円」というわりには、裏付けとなる真水の金額が圧倒的に少なかったので、どんなメッセージを発したところでまったく説得力がありません。

コロナ・ショックで落ち込んだ経済をV字回復させる“道筋”にいたっては、いまだそのビジョンを示せず、あろうことか財政均衡論者を重職に登用して「コロナ復興税をつくるのでは?」と国民を不安にさせている始末です。

政府が十分な環境と支援を用意せず、いくら国民に外出自粛を呼びかけたところで、背に腹は代えられない人々が、今の日本にはたくさんいます。

幸運にも日本は、緊急事態宣言解除後もウイルス感染の爆発的拡大を防ぐことができていますが、今後感染流行の第二波が来たり、新たな未知のウイルス感染が流行したりした時に同じような対応をしたならば、次は目も当てられないような結果になるかもしれません。

遅ればせながらも、安倍政権が財政出動の面で軌道修正できたことは評価すべきでしょうが、泥縄式の補正予算で戦力を小出しに逐次投入するのは、官僚主導の従来通りのやり方、すなわち緊急時にふさわしくない“平時”のやり方です。非常事態である“有事”には、官僚ではなく政治がリーダーシップを発揮して、それに見合った対応をする必要があります。