「何か運動をしなきゃな」、そう思いながらも仕事に追われ、長年不摂生な生活を続けてきたサラリーマンが、身体のことを考えて定年退職後にウォーキングを始める。それは確かにいいことですが、ウォーキングでは「何もやらないよりはマシ」という程度。

ただ、60代はまだまだ多くのことにチャレンジできる年代。時間の余裕もあるのですから、衰えかけた身体に『筋トレ』という喝を入れて、若々しい体と体力を手に入れませんか?

京都大学名誉教授で、日本のスポーツ医学の権威である森谷敏夫氏が語る「定年筋トレ」のススメ!

※本記事は、森谷敏夫・吉田直人:著『定年筋トレ 筋肉を鍛えれば脳も血管もよみがえる』(ワニ・プラス:刊行)より一部抜粋編集したものです。

「年を取れば衰えるのは当たり前」なんて間違いだ

「筋力トレーニングを始めるのは定年後からでも決して遅くない。ちゃんと筋肉はつくし、引き締まった若々しい体が取り戻せ、健康寿命も延ばすことができる。いいことはたくさんある」

私が述べようとしているのは、ただ一点、このことです。

身体機能は20歳をピークに加齢とともに下降し、筋力や持久力、柔軟性などは1年で約1%ずつ低下するという研究結果があります。

それに照らし合わせれば60代になった今、20歳の頃に比べ、身体機能は40%も衰えていることになります。

加齢によって筋肉量が減少することを意味する「サルコぺニア」という言葉が最近、よく聞かれるようになったのは、その現実を受け止めなければならない、という意識からでしょう。

ただし、身体機能の下降が起こるのは「何もしなければ」です。

若い頃から現在までトレーニングやスポーツを続けている人は、若干の機能低下はあるものの、筋肉量はほぼ維持しています。

また、筋肉は適切なトレーニングや食事、休息をとることによって、何歳になっても強化できることがわかってきました。

自分の体のことを考えるうえで、まず頭に入れておいていただきたいのは「身体機能は、その人の生活に適応している」ということです。

若いうちは体力もあるし好奇心も旺盛、なおかつ体を動かす機会も多い。

サラリーマンとしても新人はたいてい営業などに配属されて外を歩きまわったり、現場での体力仕事をさせられる。

常に動いているため筋力をはじめとする身体機能も高いレベルで保たれるわけです。

しかし、キャリアを積み管理職になるとデスクワークが多くなります。

通勤で歩きはするものの、体を動かすとすれば、つきあいゴルフをするくらいのものでしょう。

酒を飲む機会も多くなり、締めにラーメンを食べたりもする。

そういう生活を続けているため、脚をはじめとする筋肉は年に1%ずつ順調(?)に減っていき、その一方で脂肪はしっかりついてお腹ポッコリ。

定年を迎える頃には、そんな体になっているわけです。

現在の身体機能は、そうしたサラリーマンにありがちな生活に適応することで成立しているのです。

その一方で世の中には定年がなく、常に体を動かしている仕事もあります。

たとえば漁師。

歩くことはあまりありませんが、波に揺れる船の上で足の筋力を使いながら常にバランスをとっている。

水揚げの時は、腕はもちろん背筋、腹筋、脚の筋肉を総動員して力を使っています。

60代、70代であっても、漁師さんにだらしない体をしている人はいません。

彼らはとくにこれといったトレーニングはしていないですが、みな筋骨隆々ですし、体力も20代のサラリーマンよりあるはずです。

▲漁師の体は引き締まって筋肉もある イメージ:Fast&Slow / PIXTA

これは漁師という日常生活に身体機能が適応した結果であり、年をとっても筋力を使っていれば衰えることがないことの証明でもあります。

つまり、現在のあなたの体は長年の会社生活に適応することで形づくられたのです。

そう考えると必要な筋力は、その人の目指す生き方次第ともいえます。

定年後は盆栽を趣味にしたいという人は、盆栽をいじるだけの筋力があればいいわけです。自分自身がそれに満足できれば。

しかし、60代はまだまだ元気。

定年後は時間もあるし、チャレンジしたいこともたくさんあるはずです。

現在のままの体力で本当にいいのでしょうか。

身体機能は何もしなければ年に1%ずつ低下していき、長い会社生活によって20歳の頃の約40%減になっているわけですが、筋肉はトレーニングによって、その減少分を取り戻すことができます。

歯車を逆回転させることができるのです。