2019年に惜しまれつつ逝った車椅子の天才宇宙物理学者・ホーキング博士の名言を若田光一さんが読み解き、ホーキング博士の「脳内宇宙」を旅した記録。宇宙で最も奇妙で魅力的な存在――ブラックホール。少しずつ、でも確実に人類は「井の中の蛙」ではなくなりつつあるようです。
ブラックホールの存在は奇妙だが科学的事実だ
事実は小説よりも奇なりと言うが、
ブラックホール以上にその言葉が
ぴったり当てはまる場所はない。
ブラックホールはSF作家が考えついた
どんなものよりも奇妙だが、
その存在は厳然たる科学的事実だ。
『ビッグ・クエスチョン〈人類の難問〉に答えよう』より
2019年4月、世界から約80の研究機関が協力して行った観測によって、ブラックホールの撮影が初めて成功したと発表されました。地球から約5500万光年も離れた「おとめ座のM87」という銀河の中心にあるブラックホールです。
ブラックホールは、アインシュタインの一般相対性理論をもとにして、1916年にドイツの天文学者がその存在を推定した天体で、観測がとても難しく、今まで周囲の電磁波などから間接的に観測することしかできず、今回はその存在を証明する初の成果だったようです。
また、多くの銀河の中心には巨大なブラックホールが存在し、銀河の形成にも関わっているブラックホールの研究は、宇宙の成り立ちの解明にもつながると期待されていると聞いたことがあります。
長年、ブラックホールに関しても研究を続けていたホーキング博士さえ、その存在を「奇妙」と言うくらいですから、私たちがそれを理解するのもなかなか難しいものかもしれません。きっと、この宇宙は「事実は小説よりも奇なり」という事象にあふれているのだと思います。
じつは、ISSの「きぼう」日本実験棟にある全天X線監視装置(MAXI)は、多くのブラックホール候補天体の観測に成功しています。このMAXIは2009年7月にスペースシャトルSTS-127ミッションでISSに運ばれ、私もロボットアームを使った「きぼう」船外実験プラットフォームへの取り付けに参加したX線観測装置で、現在も運用中です。