最近ではテレワークなどで電車通勤をする人も減っているかもしれないが、いつもは線路を挟んで眺めるだけだった反対側のホームに立つと、それだけでも新鮮な気持ちになる。人気旅行作家の吉田友和氏がハマっている「ご近所 半日旅」。自宅から電車やバスなどの公共交通手段で行く半日旅を紹介してもらいました。

※本記事は、吉田友和:​著『ご近所 半日旅 -いちばん気軽な「新しい旅」のスタイル-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

童心に帰ったつもりでのプチ冒険こそが魅力

旅というのはハマる要素が強い。イマドキの言葉で喩えるなら「沼」である。それも、底なしと言っていい。

「こんなに楽しいことがあったのか!」

と、のめり込み、気がついたら旅のことばかり考えるようになっている。その内容も、旅を繰り返すうちにどんどんエスカレートしていく。より遠くへ、よりディープな場所へと、難易度が上がっていく。

このことは、ご近所半日旅でも変わらない。ここでは「ややご近所」についての話をまとめていく。自宅から電車やバスなどの公共交通手段で行く半日旅だ。

子どもの頃、自転車に乗って隣町などへ遠征したことがある。いつもの公園で遊ぶのにも飽きてきて、友だちと一緒に勢いまかせでペダルをこいだ。同じような経験をした人は少なくないはずだ。

いまにして思えば、そこまで遠くへは行っていないのだが、子どもにとってはプチ冒険である。見知らぬ風景に身を置くのが快感だったが、家に帰れなかったらどうしようという不安な気持ちも芽生えたのを覚えている。

「ややご近所」への旅は、ある意味あの遠征行為に似ている。というより、あの頃に抱いていた冒険心を思い出しながら実行すると、より楽しめる気がするのだ。

童心に返ったつもりで、自分のなかのアンテナを広げよう。好奇心に駆られ、気ままに出発するべしだ。さながら、大人のプチ冒険である。

▲童心に帰ったつもりでのプチ冒険こそが魅力 イメージ:PIXTA

普段と逆方向の電車に乗ってみよう

ご近所半日旅を繰り返していると、芋づる式で次に行きたい場所が自然と出てくる。しかし、目的やテーマが定まらない場合もある。

もし行き先のアテがないのなら、あえて行き当たりばったりに旅してみるのも手だ。旅は予定調和ではないほうが面白いのだから。

たとえば、普段とは逆方向の電車に乗ってみる、なんてのはいかがだろうか。

私の場合、いつもは乗るとしたら都心に向かう電車に乗る。会社勤めをしていた頃は、毎日都心まで通っていたし、今でも打ち合わせや取材など仕事の用事があって移動するとしたら、基本的に上り列車に乗車する。人によりけりだが、都心近郊の住宅地に住む者なら、やはり同じような行動パターンが多いだろう。

これを逆方向に乗ってみるわけだ。いつもは線路を挟んで眺めるだけだった下り列車が来るホームに立つと、それだけでも新鮮な気持ちになる。

あくまでも逆方向へ行くだけで、必ずしも都会から田舎へというわけではない。世田谷からなら、都心とは逆方向へ進むとまず川崎に入ることになる。東京とはいえ、うちの近所には田畑が多く、野菜の無人販売所があるぐらいなので、むしろ川崎のほうが都会的な風景に感じられたりもする。

逆方向といっても、沿線であれば駅名ぐらいは知っている。けれど、駅名を知っているだけで降りたことがない駅が大半だ。どこで降りても未知の世界が楽しめる。ある意味、宝の山状態。選り取りみどりなのだ。

「さて、どこで降りようかな……」

と思案しつつ、地図アプリを立ち上げる。地形を確認しながら、気になった場所を見つけたら狙いを定めるのだ。

▲普段と逆方向の電車に乗ってみよう イメージ:PIXTA

どこで降りたらいいか選びきれないなら、いっそのこと終点まで乗ってみる、なんてのも痛快だ。距離的にご近所ではなくなってしまう可能性もあるが「半日旅」かどうかの目安となるのは時間である。

「暇人?」などと突っ込まれる覚悟で書いている。我ながら酔狂だなぁと自嘲するが、旅なんてする者の心構え次第だったりするから、こういう馬鹿げた行動を面白がれるかどうかが、案外重要ではないかとも思うのだ。