新型コロナの影響で外出がままならなかった事をきっかけに、自炊にこだわる人が多くなりました。おうちグルメを充実させるためのレシピ本なども多く出版されています。中には「有名レストランの味が自宅で味わえる!」なんていう謳い文句のものもありますが、実際にレシピどおり作ってもお店の味を再現できない…と悩んでいる方も多いことでしょう。

やっぱり料理の腕がないとダメなのでしょうか…いえいえそんなことはありません。その理由を、予約のとれない料理教室を主宰し、テレビや雑誌で引っ張りだこの「弱火シェフ」こと水島弘史氏がわかりやすく解説します。

※本記事は、水嶋弘史:著『読むだけで腕があがる料理の新法則』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

「お店の味」と「家の味」、いったい何が違うのか

有名店のシェフのレシピの通り、家で作ってみても「やはりお店のものとはだいぶ違うなあ」ということも多いでしょう。

そこでわいてくる疑問は「なぜ?」です。書いてある通りにやっているのに、なぜ「イマイチ」なのか。また、こっちのシェフは強火と言っているのに、なぜこっちのレシピ本には弱火にしろと書いてあるのか? 弱火と強火でいったい何が違ってくると言いたいのでしょうか? どちらも「こうすればふっくらジューシー」などと書いてあるだけだったりします。

お料理が好きな人、おいしいものが大好きな人ほど「なぜ???」の数は増えていくのではないでしょうか。

結局「やっぱり経験の違いかなあ」「お店で使うひき肉はスーパーで売っているものよりきっと上等なんだろうなー」「調理器具や火力が違うのかしら」「プロとは微妙な力の入れ方とかが違うのかも」というところに落ち着いてしまうのではないでしょうか。

けれど、ほとんどの場合、「おいしいかまずいか」「絶品かイマイチか」の違いというのは、素材の差でも、経験の差でもありません。慣れでもコツでもない。

差が出る最大の理由は「なぜおいしくなるのか」の理由を知らないままに「レシピ通り」に作ってしまうためです。レシピというのは、「材料」のことだけではなく、それ以上に「手順」です。手順とは、加熱の方法、素材の混ぜ方、すべてを含みます。そして、作る環境によっても違います。

▲おいしくなる理由を知らないことが差につながる イメージ:metamorworks / PIXTA

あるシェフが「お店ではこのポイントで強火で加熱している」ということでも、それを家庭の調理器具でそのまま実行すると、失敗につながることもあります。つまり、なぜシェフは店で強火を使っているのか、強火にすることでどんな効果を狙っているのか、ということを知らずに、そのまま家で実行すれば調理器具、環境の違いだけでもおいしさに違いが出てしまうということです。

いくら「家庭用にアレンジしました」とあっても、プロのシェフは家庭料理がどんな環境で作られているのか、またどのていどの知識を持った人が作るのかまで、緻密に配慮することはできません。家庭用アレンジというのは、「なるべく手に入りやすい材料で」「なるべく時短で」ということに重点が置かれることがほとんどです。

けれども、本来ハンバーグなどのシンプルな料理は、肉に混ぜ込む具材や、仕上げに使うソースよりも、まず「ひき肉をどうやってまとめてどうやって焼けばおいしくなるか」という一点さえわかっていれば、どんな環境でも失敗することはないのです。それには、「なぜこういうまとめ方をすればおいしいのか」「なぜこういう焼き方をするとふっくらするのか」という理由を知っておくことが必要です。

ハンバーグというと、しばしば「最初に肉の周囲を強火で焼き固めて肉汁を閉じ込める」という説明がされていることがあります。これがすべて「間違い」ではありません。実際、プロの調理で、最初に焼き色をつけてから、火を通すという方法をとるケースはあります。けれども、店と家庭では鉄板の厚さや、火力も違いますし、プロにしても強火にする理由は「肉汁を閉じ込めるため」とは限りません。

それに、そもそも「強火」って、いったいどのくらいの温度のことなのでしょう? フライパンで強火、といってもフライパンにもよるし、コンロにもよります。同じ火力でも加熱時間によっても温度はまったく変わっていきます。

家庭のごく普通のコンロと普通のフライパンで「強火で熱したフライパンで肉を焼き固める」を行うと、まず間違いなく肉は急激に縮み、周囲が焦げて中が生焼けになります。くわしい説明や「改善法」は本文に書きましょう。

▲レシピ通りに作るだけでは大失敗してしまうことも イメージ:Graphs / PIXTA