「勝たなければ来年がない」という危機感

――具体的には、どのように毎日を過ごしているんですか?

戸嵜:トレーニング期とシーズン中とで全然違うんですけれど、トレーニング期は朝起きて、準備をして食事をとって。朝はフルーツや野菜だったりで、たまにオートミールです。10時くらいから監督とマンツーマンで練習して、昼食はお弁当を持っていくこともあれば、外で食べることもあります。そのあとは、海外バレーの映像を見て、自分のなかでイメージを作ることが多いです。

19時からは、昼間働いている選手たちと合流して22時まで練習します。帰宅するのが23時ぐらいで、軽く夕食をとって、寝てという繰り返しですね。

――それがシーズンに入ると、どう変わるのでしょうか?

戸嵜:シーズン中は午前の練習がなくなって、その時間を体のケアとか治療、メンテナンスに充てるようにしています。午後も、前週の自分たちの試合や、次の相手の試合の映像を見たりすることになります。そこから会場への移動が入ってくる感じです。

――映像を見るというのは大事なんですね。

戸嵜:そうですね。映像を見て「今日はこれをやってみよう」と課題を明確にして取り組めるので、収穫のある練習ができているんじゃないかと思います。

とくに海外の映像を見ると刺激をもらえますね。海外はトリッキーな遊びのなかで技を習得している感じで「そんな発想があったのか!」と新鮮な発見があるんです。なかでもポーランドのバレーが面白いですね。日本でもパナソニックでポーランド出身のクビアク選手がプレーしていますが、何をするかわからないんですよ。

――「こんなことをやっていいの!?」ってことやってくる?

戸嵜:型破りなんですよね。本当に面白いですよ。先日行われたネーションズリーグ(FIVBバレーボールネーションズリーグ2021)の決勝戦は、ブラジル対ポーランドでした。ポーランドは2位でしたけど、平均身長ではブラジルよりずっと下なんですよ。それでも互角に渡り合っていました。個人個人のスキルが他と違いますね。体が小さくても世界で戦えるというのを示している感じがあるんです。ポーランドのバレーというのは。

――ところで、チームでは唯一の日本人プロ選手ですが、ある種の孤独のようなものを感じることはありますか?

戸嵜:それはめちゃくちゃありますね。VC長野はクラブチームなので、皆さんは仕事をしながらバレーボールをやっている。それはすごく大変だと思うんです。それこそ映像を見る時間もなかなかとれないでしょうし。だけど、僕も僕で勝たないと来年がない。なんとしても勝ってV1に残りたいという思いがあって、そのギャップがどうしてもあると思うんです。

チームにはもう1人、インドネシア出身のリヴァン選手がプロとしてやっていて、意識としては近いものがあると思うんですけど、言葉の壁もありますし、すべてを伝えきれていないところもあって。僕は練習している体育館から離れたところに住ませてもらっていることもあって、孤独を感じることは多いですね。毎日、考えなければならないことがいっぱいありますね。

▲プロという立場ということもあり「孤独を感じることもある」と語る戸嵜選手

――ひとりの時間は、どう過ごしているのでしょうか?

戸嵜:基本はバレーボールの映像を見ることが軸ですなんですけども、やっぱりストレス発散も大事なのでアニメを見たりしています。あとは自炊をしたり、ふらっと観光に出掛けてみたり。それ以外にも、自分のグッズを販売したり、バレーボールという競技自体を広めていくための活動をしています。

――まずは皆さんに知ってもらわないことには、というところですね。

戸嵜:先日も、地域のバレーボールチームの練習に参加させてもらったんですけど、僕が何も言わなければ、僕がV.LEAGUEでやっていることを知らなかったんじゃないかと思うんです。バレーボールをやっている人に認知されていないのに、一般の人に知ってもらえるはずなんかないので、どういう風にその輪を広げていくかというのを考えています。

――考えることがいっぱいありますね。

戸嵜:そうなんですよ。ストレスで肌がめちゃくちゃ荒れたこともありましたし、悩みすぎたこともあるんですけど、いまは自分にできることを少しずつでもやっていこうという気持ちでいます。

▲編集部からの撮影のリクエストにも快く応じてくれた
【編集部より】
バレーボールの魅力や楽しさなど、プレーヤーならではの視点で語ってくれた戸嵜選手。そして、自分自身が持っている危機感や孤独など赤裸々に話してくれました。インタビュー中編では、オフの過ごし方や、あの大人気バレーボール漫画にまつわる、まさか!?の話をお届け予定です。

≫≫≫ インタビュー中編は7月20日(火)配信予定です。お楽しみに! 

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プロフィール
 
戸嵜 嵩大(とざき たかひろ)
1995年6月14日生まれ。VC長野トライデンツ所属。 ポジションはアウトサイドヒッター。191cmの長身から繰り出される強烈なスパイクが持ち味。本人SNS=Twitter(@zastozaki)、Instagram(zastozaki)、Tik Tok(zastozaki)、YouTube(嵜チャンネル)