「プロになって自分は何ができなかったのか、わかるようになった」。そう語るのは、プロバレーボール選手の戸嵜嵩大(とざき・たかひろ)だ。戸嵜はこの1年、V.LEAGUEの最上位・V1に属する「VC長野トライデンツ」でプレーしてきた。

V1のチームの多くは実業団で、選手は母体となる企業の社員であることが多い。地域が主体のクラブチームでも、昼間はスポンサー企業などで働いている選手がいるなかで、戸嵜は純粋なプロ選手としてVC長野トライデンツと契約をしている。

実業団のチームから、プロとして移籍したことで「1日1日を大切にするようになった」と話す戸嵜選手。この1年間で成長できたという自負があるようだ。だが、その一方でプロとして孤独を感じることもあるという。戸嵜はいま、どのようにバレーボールと向き合っているのだろうか。NewsCrunch編集部の単独インタビューで話してくれた。

「仲間のためにつなぐ」ってやっぱり面白い

――戸嵜さん自身、バレーボールの魅力はどんなところにあると思っていますか?

戸嵜:シンプルに「ボールを落としてはいけない」ということですね。だからチームのなかで1人だけが突出していても勝てる競技ではないんです。レシーブする人がいて、トスをあげる人がいて。「仲間のためにつなぐ」という、他の競技にはない部分が、すごく面白いんです。

――観戦する側としては、どのあたりを見るとより楽しめるのでしょうか。

戸嵜:バレーを「観る」となると、ボールの行方を追いかけて、その都度、何が起きたのかっていうのを追っていきがちです。そこで「いまのスパイクは、なぜ決まったのか」とか「どんな風に決まったのか」というところまで考えると、チームの戦略とかも見えてくるんです。

――ボールだけではなく、選手がどう動いているかを見ると、理解が深まるということですね。

戸嵜:そうです。ストレートを開けたり閉めたり〔相手にストレートを打たせるコースを作ったり作らなかったりすること〕で、ディグ、つまりスパイクのレシーブを受ける位置も変わってくるんです。「さっき打たれたから、1歩前に出てるんだな」というところまでわかってくると面白いと思います。

トスをあげる選手も、高いハイトスをしたり、ちょっと突くだけだったりしますが、選手同士はその打ち合せをどこでやっているんだろう? と考えて見てもいいかもしれませんね。「あ、口パクでなんか言っていたな」とか、わかってくるようになります。

▲身振り手振りをまじえて、バレーボールの楽しみ方を語ってくれた

――戸嵜さん自身は、昨シーズンからプロ選手としてチームと契約しています。実業団からプロ選手になって、意識のうえで変わったところはありますか?

戸嵜:前のチームでは、すべて与えられた環境でやっていました。あらゆるものが提供されていましたし、トレーナーも何人もついていてくれました。それがプロになってからは、何もかも自分で管理しなければならなくなりました。

すると「自分は、これができていなかったんだなぁ」ということがよくわかるようになりました。トレーニングひとつにしても、自分で「こういうトレーニングをしたい」という提案をして取り組むようになりました。それで体の“がっしり感”が変わりました。社会人1年目から比べると体重は10kgぐらい増えていますが、体脂肪率は8%ぐらいですから、ほとんどは筋肉です。

――まさに「体が資本」というイメージですね。

戸嵜:ケガをしてしまったら、来年も残れるかどうかわからなくなるという不安もあるので、1日1日をすごく大切にするようになりました。練習も「こなしている」という感覚ではなくて、1回1回の練習、ひとつひとつの動作に身が入るようになりました。それで結果が出たときは、かなりうれしいですね。

▲鍛え抜かれた体で跳躍する姿は大迫力だった