全ての営業パーソンが意識しているであろう「アプローチ」「ヒアリング」「プレゼン」。たしかに、この3つも重要ですが、同じくらい大事なのは「クロージング」であると、中小企業向け営業コンサルティング会社の代表である大塚寿氏は語ります。受注競争の先頭から一気に転げ落ちることもあるプロセス、実は多くの営業パーソンがその意味を勘違いしているようなのです。“ヒアリング上手のクロージング下手”にならないための考え方、成約に持ち込むための言い方とは?
売れるクロージングの考え方とは?
営業のクライマックスは、なんといっても「クロージング」です。
なぜなら、アプローチ・ヒアリング・プレゼンでトップを走っていても、この「クロージング」で競合に負けてしまっては、それまでやってきたことが全て水の泡になってしまうからです。
実際に、それまで一番手だった会社が「クロージング」の段階で敗れてしまうことが、あまりに多いのです。
そういう意味で、小説や映画の最終局面である「クライマックス」と同じくらいの重要度があるのですが、“ヒアリング上手のクロージング下手”の人が、実は多いのです。
プロ野球では、勝ちゲームの最終回を投げるピッチャーのことを「クローザー」といいますが、営業用語としての「クロージング」は、営業プロセスの最終局面である「契約の締結」「成約」の意味として用いられます。
広義では「顧客に対し提案内容、価格に納得いただき契約を締結する動き」、さらにいえば、そのアタマに「競合との受注競争に勝ち抜き、成約に持ち込むための詰めのプロセス」を加えて、私たちは営業現場で「クロージング」という文言を使用しています。
この「詰めのプロセス」に、“ヒアリング上手のクロージング下手”の惜しい営業を生み出す要因があります。
「お客様にクロージングを迫って、せっつくのは失礼だし、カッコ悪い」「そもそもクロージングはこちらの都合なので、お客様に結論を迫るなんて筋違い……」とクロージングをためらう理由は山ほどあります。さらに、それらを正当化する理由もいくらでも出てきます。
ですが、問題の本質はクロージングが「得意」とか「苦手」とか、“ためらわずにできる”とか“どうしてもためらってしまう”といった二元論ではありません。
顧客志向が強く、控えめな性格でクロージングが苦手な人でもストレスなく言える、成約に持ち込むための「言い方」を知っているか否かだけなのです。
これは、営業パーソンの性格ではありません。どの業界でも「今日、発注書をください」と切り出すのも無理はないと判断される理由、というか口実があるのです。
もちろん、今日、発注書をもらいたくてそう言っているのではなく「もらえない理由」が知りたいのです。
詰めは「次の一手」を把握するためのもの
例えば、IT企業がお客様に5250万円の見積を出したあとのクロージングの場面。
「S部長、手前勝手な理由で大変恐縮なのですが、実はご存じのように、テレワーク対応のシステム開発案件の需要が爆発しておりまして、弊社も要員不足が深刻になっておりまして……。で、絶好のタイミングで、あるプロジェクトが来週終了しますので、もし今日、内示という形で部長の意思表示がいただけましたら、私、今、ここから携帯で電話して、その要員を確保することができるのですが……。もちろん、正式な発注書はご稟議のあとにいただくとして、今日、部長からの内示という形で……」などという言い方です。
お察しの通り「ハイ、わかりました」といったハッピーエンドにはならないでしょう。
「このコンプライアンスの時代に内示なんて、出せるわけないでしょ。Oさんだってオレの決裁権がどれくらいあるか知ってるでしょ。そこまで言われたらさ、こっちも言わせてもらうけど、確保してる予算5000万なんだよね……」
といった会話となって、見積額の5250万円では受注できなかったであろう事実が把握できたりするのです。
クロージングの「詰め」は、その受注のボトルネックとなる事実を把握し、それを解決するための「次の一手」を講じることですから、当然、その情報を元に次の動きに入ります。
「5000万円ですが……。うちも精一杯の数字を出させていただきましたので、私の権限ではなんとも……。ですが、部長、納期と要員と仕様を少々調整させていただければ、もしかして5000万円内に収まるか、社に戻って、上司と相談致します。で、明日、その結果をお持ちしたいのですが、午後にお時間って……」という感じです。
すでにおわかりだと思いますが、このようなクロージングのやり取りをせず「では、良い結果をお待ちしています」などとスマートに帰ってしまうから、5250万円の失注になるのです。」
これこそが惜しい営業、残念な営業だとは思いませんか?
ですが、こうしたクロージングを行えば、5000万円前後で受注する確率が残され、1年で考えると何回かは受注できるでしょう。
そうなると、その分の業績が加わりますから、当然、営業数字はコンスタントに高くなるのです。これが、売れる営業パーソンたちのクロージングの定番なのです。
※本記事は、大塚寿:著『〈営業サプリ式〉大塚寿の「売れる営業力」養成講座』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。