これまでであれば休憩の合間や、もしくは会社が終わったあとの飲みの席などで、気軽に先輩や同僚へ相談できた仕事の悩み。コロナ禍でリモートワークが一般的な最近では「ウェブ会議で議題以外のことを聞くのも……」と尻込みしている若手営業パーソンも少なくないのでは? そんな起こりやすくて引きずりやすい悩みを、元リクルート“最強営業部隊”出身で、伝説のトップセールスマンだった大塚寿氏が一発回答してくれました。
「自分」に価値を持ち、製品や客先に「関心」を持つ
〇 「自社製品を自信を持ってお勧めできない(心の底では「お勧め」と思えていない)」
〈回答〉
実直なご意見なのですが、正直、ここを考え始めてしまうと営業成績は低迷してしまいます。
なぜなら、自信を持って「お勧め」できる製品があったとしたら、それは高額過ぎて売り物にはならないかもしれません。
完全無欠な製品やサービスを作ることが可能であっても、コストが高過ぎたらビジネスにはならないのです。
あるいは、仮にそうした製品が現実的な価格で供給できるようになったとしても、そのときに、それを売るために営業パーソンは必要でしょうか。
心の底から「お勧め」の商品やサービスは当然、その根拠となる“かなりの強み”を持っているでしょうから、顧客のほうから買いに来てくれるので営業部門は不要かもしれません。
つまりは、“自信を持って「お勧め」できる製品”というのは、“青い鳥”みたいなもので、ないものねだりになってしまう可能性が高いのです。
現実的な話をすると、買うか・買わないかを決めるのはお客様のほうです。その意思決定の基準も一つではありません。
数社と比較して、機能特性はA社、価格はB社、柔軟な対応力はC社といった流れで評価されるのに、営業パーソンが“十把一絡げ(じっぱひとからげ)”でザックリ「自社製品を自信を持ってお勧めできない」と判断するのは大雑把過ぎるのです。
「総合的にはA社に負けるが、〇〇の機能特性だけは自社が一番優れているとするなら、そこを“お勧め”に据える」のが営業パーソンの仕事です。もっと言うと、お客様は「あなた」から買いたいと思っているかもしれません。営業パーソンの介在価値について考えたことがあるでしょうか。
製品力なら、間違いなくA社製品を選ぶけれど、普段から役立つ情報を持ってきてくれるので、あなたから買いたいというお客様は山ほどいます。
何かあったときに最後まで逃げずに対応してくれるので、多少高くても御社から買うという企業も少なくありません。
ホントのことをいいます。「自社製品を自信を持ってお勧めできない」なんて営業パーソンが思ってしまったら、製品が可哀想過ぎます。
ここは、自己暗示でも、一点突破でも構いません。自社製品に愛情を持って、戦える突破口を探して「自社製品を自信を持ってお勧めできない」部分は、自分の介在価値で補ってプラスを生み出す気持ちで、営業に向きあって欲しいと思います。
先人たちがそうしてきたように。
〇「自分が担当の製品/客先を好きになれていないため、自主的な営業活動ができない」
〈回答〉
「好き」は感情・感覚ですが、先程の相談と同様に、製品、ましてや、お客様を好きになれないと考え始めてしまうと営業成績は低迷してしまいます。
「好きになれない」と言っている人に「好きになれ」とは言いません。しかし、担当の製品やお客様を「好き」「好きではない」という二元論で考えてしまうのは危険です。白と黒の間にはグレーがあり、しかも黒に近いグレーにと白に近いグレーがあるのが事実なはずです。
しかも四捨五入するかのように「好きになれない」と極論に決めつけてしまうのは、なんのプラスも生みません。
好きか、好きではないかを決めるのではなく、自社製品の「好きなところ」、お客様の「好きな部分」と見つけるのが正しい考え方になります。
どんなに微細なことでも構わないのです。
ところで、国語では「好き」の対義語は「嫌い」でしたが、実は「好き」も「嫌い」も感情のエネルギーは同じなのです。
その感情のエネルギーがポジティブな方向を向いていれば「好き」ですし、ネガティブな方向を向いていれば「嫌い」になります。
問題は「好きになれない」が「無関心」になってしまうケースです。「無関心」は最悪で、感情のエネルギーが「ゼロ」の状態なので、営業成績には強い悪影響を及ぼします。
つまり、製品やお客様を好きになれなくても、関心を持ち続けること。「なぜ、好きになれないのか」を分析することも、関心がないとできないことなので、そのアプローチでも構いません。
「好き」であることは武器になりますが、好きになれないなら「関心を持つ」ように自身をコントロールするようにしてみましょう。
※本記事は、大塚寿:著『〈営業サプリ式〉大塚寿の「売れる営業力」養成講座』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。