テレワークが一般的になりましたが、新人営業パーソンにとっては先輩や上司に「こんなとき、どうしたら…」と気軽に相談することが難しくなっているかもしれません。そこで、元リクルート“最強営業部隊”出身で、伝説のトップセールスマンだった大塚寿氏に、営業パーソンがつまずきやすい“場面”について聞いてみました。小手先の技に走らず、真の成長を目指すためには自らを変えていく必要があるのです。

顧客よりも苦労しがちな「社内営業」について

▲見積もり回答が遅いと負けにつながる イメージ:PIXTA

〇「顧客からの見積り、納期、技術的質問に対する工場側のレスのスピードが遅い」

〈回答〉

企業によっては、顧客への営業より、自社の関連部門への「社内営業」のほうに骨が折れるということも少なくありません。

見積回答が遅くなってしまうのは、積算コスト集計に時間がかかり、何十もの社内手続きといった冗長な決裁プロセスだけではなく、現場が減員され、限られた人数で案件を回しているから、という場合もあります。

構造的な問題ですので、技術部門や製造部門が主役で、営業部門が脇役の大手製造業などでは、いくら営業パーソンが頑張ったところで、なかなか変わるものではありません。この積年の課題を解決した企業を知っていますが、ボトルネックとなっていた箇所を増員しました。そしてさらに、工数はかかるものの利益が少ない顧客の仕事からフェードアウトしていったことです。その結果、利益は4倍になりました。

そもそも、見積回答や納期回答といった業務プロセス自体が、10年後にあるのかどうかも微妙なAI・DX時代ですから、営業がその辺りの業務改善のたたき台を作って、うまく根回しして、業務改善を進めて欲しいと思います。

自社が納めたプラントの改修案件であったり、よほどの技術優位性がないと、見積りや納期、技術的質問へのレスが遅い会社というのは、営業場面で「負け」が目立ち、あっさりと競合会社やベンチャー、新興国企業に追い抜かれることになりかねません。

そんな事態にならないように、全社を巻き込んだ業務改善や改革の機運を醸成させるのも、大切な「社内営業」の仕事です。

〇「設計、生産管理部門とのレベル合わせができていない」

〈回答〉

近親憎悪とまでは言いませんが、どうしてもお互い「営業-設計」「営業-技術」といったように、利害が対立する関係で考えがちです。

よくあるのが、営業は設計部門に対し「売れるものが作れない」と思っているのに対し、設計部門は「作ったものを売ることができない」と思っていることです。

対立関係に慣れてしまうと、コミュニケーションまで疎かになってしまいますので、まずは「私たち」という主語を使うようにして、日常的なコミュニケーションを密にするところから始めましょう。

「顧客満足の最大化」という共通のゴールがあるはずなので、そこに向かった絶え間のないコミュニケーションを行いましょう。

売上に直結する商談管理・案件管理について

▲ロジックを用いるには、まず確度の確認が必要 イメージ:PIXTA

〇 「確度が見えない案件を、どのように確度を上げていくのかが、自分の中にロジックがない」

〈回答〉

受注確率90%以上、70%以上、50%以上といった受注確度になれば、その確度を上げていくロジックは見えやすくなりますが、問題はまだ、その確度が見えない案件。

私のリクルート時代は、受注確度を「ヨミ」という言葉を使って「ヨミ表」という管理帳票で管理しており、私の事業部では90%以上をAヨミ、70%以上をBヨミ、50%以上をCヨミ、そして確度が見えない案件は「タマ」と呼んでいました。

その「タマ」の確度の上げかたですが、まずは相手の出方を待つのではなく、自部門でのCヨミの基準に則って、まずはCヨミに格上げになる「次の一手」を能動的に講じることです。

Cヨミの基準が複数ある場合は「タマ」ごとに、最も難易度の低い基準をクリアするための「次の一手」を展開するようにしましょう。

〇「売上の良い月と悪い月がはっきりしている」

〈回答〉

ここでは、コンスタントに毎月受注が数回ある業界という前提です。そうした業界で「売上の良い月と悪い月がはっきりしている」状況を改善するには、まずは「ヨミ表」で全ての案件の受注確率を見える化することです。

そのうえで、売上の悪い月を出さないような“やり繰り”を行う。基本は受注の「前倒し」です。ホントは決まりそうな案件を、わざと「後ろに倒して」月の数字を平らにするほうが楽なのですが、それをやってしまうと小手先のコントロールなので、営業パーソンとしての成長には歯止めがかかってしまうので、注意してください。

〇「目の前の仕事に精一杯で、来期、再来期の予算まで手が回らず、成績が安定しない」

〈回答〉

数字の「刈り取り」に夢中になり、期末になって来期の「種まき」ができていなかったことに気づき、またゼロから「種まき」…といったことの繰り返し。

これ、多くの営業パーソンの性(さが)ではないでしょうか。

営業パーソンは、狩猟民族と思われがちですが「業績の安定」という意味では、農耕民族の要素が必要となります。

つまりは中長期的な視野に立った、種まき・水やり・刈り取りのコンビネーションです。

期末に「刈り取り」に集中するのはもちろんですが、それ以外のときには、計画的に来期、場合によっては再来期の仕込みを行いましょう。

これは、頭の中ではなく、必ず営業計画として立案し、定期的にチェックすることです。そうすることによって、自分が主導権を持って業績をコントロールできるようになるはずです。

※本記事は、大塚寿:著『〈営業サプリ式〉大塚寿の「売れる営業力」養成講座』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。