アスリートのみならず、日本国内で生活していれば一度は目にしたことがあるであろうミズノのランバードマーク。その名前から「走る鳥」をイメージしたものだと思われがちだが、実はまったく異なるものがアイディアの元となっているという。ブランド戦略コンサルタント・村尾隆介氏が教えてくれました。

※本記事は、村尾隆介:著『ミズノ本 -世界で愛される“日本的企業”の秘密-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

かつての「Mライン」が使えなくなった理由

ミズノのシューズにデザインされている〈ランバードライン〉。現在、ブランドを象徴するマークとしてすっかり定着していますよね。

でも、実はそれほど歴史的に古いわけではありません。1970年代のミズノのシューズは、モデルによってラインのデザインがバラバラ。統一感がありませんでした。特に海外展開をしようと外国人と商談を進めると、その統一感のなさを指摘されることが多かったといいます。それが段々と「シューズの両サイドにM」で揃いはじめ、1980年代には通称〈Mライン〉が国内外でミズノのアイデンティティとして定着しました。

また、こんなこともありました。〈Mライン〉とは、また異なる「ミズノのM」をシューズの側面につけたところ(モノグラムMという意匠)、なんとアディダスが「うちの3本ラインに類似している」と指摘。欧州特許庁がそれを認め、欧州での販売は禁止となったのです。

▲栄光を支えるMラインスポーツシューズ 出典:『ミズノ本』(小社刊)

こうした経験から、新たに「世界で統一したミズノのシューズにデザインするラインを考えよう」というプロジェクトが起ちあがりました。

アイデアはいっぱい出ましたが、実はスポーツシューズに入っているラインというのは、単にデザインや差別化のためのものではなく、シューズ自体の補強や伸びてしまうことの防止など、形を保つことに用いられるものなのです。

それがゆえに、スニーカー愛好家には知られていますが、各スポーツブランドのシューズの側面に入ったラインは「フォームストライプ」とも呼ばれています。

補強という観点で考えると、どうしてもデザイン案は似たり寄ったりになりがち。このプロジェクトでも180個ものアイデアがボツになりました。