軟式野球経験者のあいだでは「飛ぶバット」として有名なビヨンドマックス。通常の金属バットよりも1~2割ほど大きい反発力を実現したのは、ミズノが得意とする「異素材との組み合わせ」だった。一方、同様のプロセスで開発された「エラーをしないグラブ」はまったく売れなかったという。双方の開発秘話をブランド戦略コンサルタント・村尾隆介氏が教えてくれました。

※本記事は、村尾隆介:著『ミズノ本 - 世界で愛される“日本的企業”の秘密 -』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「ビヨンド」開発は全日本軟式野球連盟からの依頼

▲ビヨンドマックス 出典:『ミズノ本』(小社刊)

軟式野球の革命と呼ばれるバットが〈ビヨンドマックス〉。リリース当初、打者がビヨンドマックスを手にバッターボックスに入ると、キャッチャーが「バッタービヨンド!」と声をかけ、野手が守備位置を下げるというのが当たり前という現象を引き起こしました。

ミズノが2002年に世に送り出して以来、その進化は止まることを知らず、従来の金属バットと比べて反発力は1〜2割大きくなっています。

「そんな飛び道具を使うのはズルいんじゃないの?」と思う人もいるでしょう。ところが、この「飛ぶバット」の開発を依頼したのは、他ならぬ全日本軟式野球連盟でした。

日本では「男の子の遊びといえば野球」だった時代があります。その子どもたちが大人になったときは、会社でも町内でも気軽に草野球が行われていました。しかし娯楽の多様化により、野球をやらない子どもが増えれば、当然、大人になっても野球をやりません。

草野球人口はどんどん減っていきます。そうなると残るのは、ある程度本格的に野球をやっていた人たちになり、競技レベルがあがっていきます。従来、軟式野球は打球の飛距離が出にくいため得点が入りにくい。投手戦になる傾向にありました。どちらのチームも条件は同じなのですが、投手以外の選手たちにとっては、ヒットが打てないがゆえに、フラストレーションのたまる遊びになっていたのです。

そこで、全日本軟式野球連盟からミズノに「もうちょっと飛ぶバットをつくってもらえないか」という話がやってきたというわけです。

ところが、どんなに堅い素材でバットをつくっても、インパクトの瞬間にボールが、グニャリと潰れて変形してしまい、そのせいでボールが飛んでいきません。

困った末に出てきた新発想が「ボールの変形を防ぐために、バットのほうを変形させてしまったらどうか」というもの。こうしてミズノが得意なFRP(繊維強化プラスチック)を芯にし、それをランニングシューズのミッドソールなどに使用する、エーテル系発泡ポリウレタンという柔らかな素材で覆った初代ビヨンドマックスが誕生しました。

こんな逆転の発想が社内から出てきたのも、普段から基礎研究の蓄積があったからこそ。また、その後も次々と改良が加えられたのも、異素材の組み合わせが得意なミズノのカルチャーがあったからこそと言えます。

軟式野球に楽しさを取り戻し、今日も全国のフィールドで草野球愛好家とキッズたちの想い出をつくっている〈ビヨンドマックス〉。極めてミズノらしい革命的なプロダクトです。