きんと原田泰雅によるお笑いコンビ、ビスケットブラザーズ。ともに90キロを超える体重という見た目のインパクトを、はるかに凌駕するネタのクオリティで、キングオブコント2019決勝進出、2020年には『第9回ytv漫才新人賞決定戦』を漫才で制するなど、賞レースでも結果を残している。

そして、今年9月の『NHK上方漫才コンテスト』は並みいる強豪をおさえ、見事にコントで優勝。いつもパワフルなネタを披露するふたり、さぞかし“ノリに乗っているのだろう”と思って話を聞くと、お笑いへ真摯に向き合うふたりの姿が見えてきた。

▲ビスケットブラザーズ きん(左)/原田泰雅(右)

優勝できたのはヒャダインさんのおかげです

――まずはNHK上方漫才コンテスト、優勝おめでとうございます!

きん・原田 ありがとうございます!

――ビスブラのネタ、好きでいろいろ拝見させていただいてるんですが、賞レースだからといって“合わせ”にいってる印象がないので、ビックリしました。

きん 僕たちも、いいんですか?いいんですか?って感じで、気づいたら優勝させていただいた、みたいな感じですね。

原田 こんな僕たちでいいんですか?って気持ちで(笑)。ただ、合わせる合わせないみたいなことで言うと、いつもはこういう賞レースだと少し合わせにいくんですけど、今回は全く合わせにいかなかったから良かったのかもしれないです。

――そうなんですね! 意外でした。

原田 こいつら全然、優勝狙いにいってないやん、って思われるのが嫌なんです。だから前に出たときは、自分なりにちょっと受け入れられやすいネタを持っていったんですけど、今年はラストイヤーやし、これを決勝でやれたら自分たちもすごく楽しくやれるやろうな、ってネタを持っていきました。

――どのネタをかけるか、みたいな相談はおふたりでされるんですか?

原田 どのネタをかけるか、ってことで言うと、相方に聞くことが多いですね。というのも、僕が人に連絡をしたりとか、台本の提出とかが全くできない、っていうのもあって(笑)。

きん どれがが良いと思う? みたいな選択肢を用意してもらって、そこに僕も意見して、決めていく感じですね。

――今回でいうと、1本目がレジ使い、2本目がキャバクラのネタでしたね。

原田 1本目は予選でやったやつをそのままやってください、ってことだったので、じゃあ2本目はどうする? みたいな感じになって、賞レースの決勝でもかけてなくて、自分たちのネタのなかでも、お客さんを置いていかへんやろな、ってやつを選びました。

――審査員の方々も、普通の賞レースとはちょっと違った顔ぶれ(里見まさと / ハイヒール・リンゴ / 内藤剛志 / ヒャダイン / 岡本玲 / ユウキロック)ですよね。

原田 すごくうれしかったのは、僕たちがレジ使いのネタをやっているときに、ヒャダインさんがめちゃくちゃ手を叩きながら、オーバーアクションで笑ってくれてたんです。「ヒャダインさんは俺たちに札を挙げてくれるやろうな」と思いました(笑)。

きん そうそう(笑)。会場がホールだったのと、客席もかなり間隔を空けてたので、ネタの反応がわかりにくかったんですよね。

原田 僕たち、いつもネタ終わりに「ウケたな」「イマイチやったな」って確認するんですけど、今回は「わかれへんな」って言ってたんです。ただ、ヒャダインさんが爆笑してくれたんで、他の人も釣られて笑ってくれたんじゃないかって思ってます(笑)。

――いやいや!(笑) レジ使いのネタは、見てると原田さんもきんさんも愛しくなってくる、素晴らしいネタだと思いました。

きん リンゴさんも同じようなことを言ってくださって。

原田 リンゴさん、いつもネタは褒めてくださるんですけど、プライベートでは「いつ見ても汚いな! ホンマどうしようもない!」って言われてて(笑)。でも、今回のネタは「とにかく2人が可愛く見える!」みたいなコメントをしてくださってうれしかったですね。まあリンゴさん、最終決戦ではニッポンの社長に挙げてましたけど(笑)。

▲原田からの過剰な要求に、きんのNGが…風のカット

ある先輩のひと言で芸人を辞めずにいられた

――(笑)。ニッポンの社長はユニットライブをやったり、今年の2月に放送された冠特番『ビスケットブラザーズのウラ第7世代の逆襲』にも出演したりなど、ビスブラと縁が深いですよね。最終決戦で争うことになったのも、いろいろと思うところがあったんじゃないですか?

原田 いやー……(少し考え込む) これは、かなり自分の中ではムズかったですね、複雑は複雑でした。

きん ニッポンの社長の辻さんには、一番お世話になってますからね。

――見ている側としては、面白いと思うものが近しい2組が争うっていうのは、すごく美しいなって思うんですけど、ご本人にしたら確かに複雑ですよね。ytv漫才新人賞で優勝されたときも2位がニッポンの社長ですもんね。

原田 そうですね、だから、今年はキングオブコントでニッポンの社長に優勝していただいて「大阪にニッポンの社長キラーがいる」ってことで、僕らに注目が集まればいいなと思ってます(笑)。

きん 本当、最高の先輩なんですよ、辻さん。

原田 僕らのなかで一番の転機になったのが、まだ全然お客さんにウケてない頃、全然面識のない辻さんが僕らの所にフラ~っとやってきて「お前ら面白いなあ」って言ってくださったことなんです。

きん その頃は、お客さんにもウケないし、先輩にも別に可愛がられてないし。同期の奴らは、お前ら面白いなって言ってくれてたけど。

原田 「キングオブコントの予選も見てたけど、絶対に変えんでええから。お客さんがいずれわかるから」って言ってくださって。辻さんが、あのときにそう言ってくれてなかったら、“どっかで芸人やめてたんちゃうかな”ってくらい、この言葉に救われました。

――めちゃくちゃ良い話ですね!

原田 でもまあ、今でこそ美談ですけど、当時の辻さんはピン芸人で、僕もほとんど面識ないんで、言われたあとも「あざ~っす」みたいなリアクションしちゃって、なんなら「急になんやねんこの人」みたいな(笑)。でも、そのあとにいろいろなライブ呼んでくださるようになって、その頃から辻さんは先輩にも一目置かれてる存在だったんで、そこから「あの辻が認めてるんや」みたいな感じで、周りの見方もだいぶ変わって、やりやすくなりました。