自分をよく見せようとするのは最低
親父は大きな会社に勤める真面目なサラリーマンでした。
みんなで正座してご飯を食べるような厳格な家庭でね。テレビを見ても笑わない父親がある日、ブラウン管の中の芸人を見て「これでメシが食えるんだからいいよな」って言ったんです。
小学生だった自分は「これが、この人たちの仕事なのか!」と雷に打たれたような衝撃を受けました。
どう考えても、そっちのほうが楽しそうじゃないですか。
今の妻と駆け落ち同然で家出したのが19歳。いろいろなバイト生活をしばらく続けたのちに、大好きだったタモリさんの弟子になりたくて家に押しかけました。
25歳から4年半、付き人をやりました。タモリさんは優しいから、僕の運転で家に帰ると「飲むか」と。時には手料理を振る舞ってくれることもありました。
タモリさんは、自分をよく見せようとする行為を嫌う人です。他人によく思われようとするのが「一番醜い行為」 だと繰り返し言われました。
でも、若いころって人の評価を気にするし、自分をよく見せたいものじゃないですか。褒められたのはたった1度だけ。
その日はひどい二日酔いで全くやる気がなくて、その脱力加減が逆に良かったのかもしれません。
ひどく怒られたこともあります。
収録後に銀座の「ナイルレストラン」に食事に行ったら、『笑っていいとも!』のプロデューサーが「ちょっとネタ見せてよ」と珍しく声をかけてくれたんです。でも、緊張してどれを見せようかと悩んでいるうちに、注文したムルギーランチが届いてしまったんですね。
ネタ見せは、なんとなく流れてしまいました。その帰りの車で、タモリさんに烈火のごとく怒られたことは一生忘れないでしょう。
「どんな料理も冷めたらまずいんだ。 誰もお前にうまい料理は期待してない。だったらせめてすぐに出せ」
ムルギーランチを食べると今もあの日のこと思い出します。
僕の何度スベッても立ち向かう芸風の原点はここにあるんです。
※本記事は『週刊実話』(©日本ジャーナル出版)に掲載された内容を転載編集したものです。
『芸人下積みメシ』は、次回9/17(金)更新予定です。お楽しみに!!
■ナイルレストラン
住所:東京都中央区銀座 4-10-7
電話:03-3541-8246
休み:火曜
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。来店前にご確認ください。