2019年の大晦日に放送された『笑ってはいけない 青春ハイスクール24時!』をご覧になった方も多いだろう。数々のダウンタウン番組を手掛けた超人気プロデューサー・菅賢治氏が、同番組の制作秘話を明かす。すべての始まりはあの天才の何気ない一言からだった!

※本記事は、菅賢治:著『笑う仕事術』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

すべては松本人志の一言から

「笑ったら引っぱたかれるってどうですか?」

今やNHK紅白歌合戦と並んで、大晦日年越しの定番テレビ番組にまで成長した『笑ってはいけない』シリーズは、天才・松本人志のそのひとことから始まりました。

そもそもは1989年10月から放送が始まった『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(以下、『ガキの使い』)の特番から派生したシリーズで、2003年7月に記念すべき第1回『絶対に笑ってはいけない温泉旅館一泊二日の旅』が放送されています。

その後、2008年には紅白歌合戦の裏番組として最高視聴率を記録し、昨年の『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時』でシリーズ11回目を数えました。

『笑ってはいけない』の原型は、『ガキの使い』の「七変化」企画だったと記憶しています。今あらためて調べてみると、「七変化」企画は1995年10月の「松本七変化」が最初なんですね。いや、すっかり忘れてました。

最初は、松ちゃんが企画会議中に突然、意味もなくさまざまな変装を始め、真面目な会議の雰囲気の中でほかの演者たちがどこまで笑うのを我慢するかというものでした。

もちろん、この企画が大きく発展して、まさか大晦日で特番として放送することになるなんてその時は夢にも思っていませんでした。

『ガキの使い』が始まって4年目、平日の深夜枠から日曜日のプライムタイムに移って2年目くらいから、ボクら制作サイドはしょっちゅう「特番やりたい、特番やりたい」と言っていました。そんなある時、松ちゃんがボソッと言ったのが、冒頭の「笑ったら引っぱたかれるってどうですか?」という言葉です。

それを聞いて、ボクは「ああ、やっぱこの人は天才なんだな」って思いました。非常にシンプルでわかりやすいですよね。ボクらはダウンタウンのふたりが引っぱたかれる単純な映像しか思い浮かばなかったのですが、それは「面白い!」と直感しました。

でも、今になってよくよく考えると、「笑ったら引っぱたかれる」というのは、すごく哲学的というか、深い言葉だなと思います。

お笑い番組において、あえてお笑いを禁止にする──「これはどういう謎かけなのか? ボクら試されてんのかな?」と、今なら考え込んだかもしれません。

最初の頃は、今みたいなビッグなゲストが出演するとか、バスの移動などはまったくありませんでした。今思うと視聴者に申し訳ないくらいです。