チームもファンも悔しいシーズンを送っている近年の中日ドラゴンズ。来年からはミスタードラゴンズ立浪和義新監督のもと、強いドラゴンズの再建を目指すが、かつて“竜のエース”として落合博満監督政権下の黄金時代を支え、現在はCBC野球解説者を務める吉見一起氏が、これからの中日に期待することを語ります。若き竜、特に石川昂弥選手、根尾昂選手には熱い期待を寄せているようです。

※本記事は、吉見一起:著『中日ドラゴンズ復活論 -竜のエースを背負った男からの提言-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

(写真:中日新聞社)

若き竜たちよ、今こそ強い危機感を抱け!

今年からネット裏の解説者としてプロ野球を観戦して、頭に浮かぶことがあります。それが「なんのために野球をしているか」というシンプルであり、最も重要なテーマです。

もちろん、自分のため、家族のため、自分の設定した目標のため、チームのため……複数の答えがあると思います。ただ、僕がプロである以上、その根底に流れていなければいけないと思うのが「ファンのため」ということです。

お客さんが、決して安くはないチケットを購入して球場に足を運んでくれなければ、プロ野球選手は生計を立てられません。

新型コロナ感染拡大という未曽有の事態。昨年から無観客での試合も開催され、ファンの存在の大きさ、その声援の偉大さをこれほど感じたことはなかったのではないでしょうか。

ならば、やはりプロとして「ファンのため」にグラウンドで、恥ずかしい無様なプレーはしてはいけないのです。原点に立ち返れば、プロ野球選手は球場に足を運んでくれたファンを喜ばせることが宿命、といっても大げさではないでしょう。その思考に至れば、選手個々はおのずと自らが今、何をすべきか、答えは出てくるのではないでしょうか。

いまの中日ドラゴンズの選手たち……特に令和の竜たちが実際にどう感じているのか、本音のところまではわかりませんが、2軍に落とされるという危機感を持ちながらプレーしている選手がどれだけいるのでしょうか。僕が最近、抱いている疑問点です。

「自分は2軍に落とされる心配はないだろう」

そう思っているように見えてしまうほど危機感がないのです。

僕が1軍にしがみつこうと必死だったとき、ミスを犯すと「やらかしてしまった。落とされるな」と覚悟していたものです。それほど1軍にいても安閑とはしていられない状況。そういう空気が、僕が現役の頃にはチーム全体に流れていました。

やはり、この危機感や緊張感というのは強いチームには不可欠なもの。「下手なプレーはできない」という意識が、おのずと選手の言動を変えていくのです。

ただ目の前の試合を消化して勝ったら喜ぶ、負けたらヘコむの繰り返しでは成長などなく、いつまで経ってもチームは強くなりません。

▲強い時代を知る吉見氏が緊張はチームに欠かせないと力説する 写真:中日新聞社

成功オーラを持つ石川昂弥に期待するのは「和製大砲」

厳しい言葉を並べましたが、中日ドラゴンズの復活に向けて、やはり若き竜たちの成長も欠かせません。

僕は、中日ドラゴンズ一筋で15年間プレーしました。体のどこを切っても「ドラゴンズブルー」の血が流れていると自負しています。だからこそ、愛情を持って令和の時代を支える希望の星たちについて触れていこうと思います。

野手陣に目を向けると、やはり石川昂弥と根尾昂の成長こそが、将来の中日ドラゴンズの行方を握っているといっても過言ではないでしょう。

僕は現役最後の年に、このふたりが経験を積んでいた2軍の練習で一緒になる機会が多くありました。そのなかで、まず石川から感じ取ったのは、この世界で成功するであろうオーラを身にまとっていたことです。

野球選手向きという表現が適切でしょうか。天真爛漫な性格も手伝って、その振る舞いがプロ2年目にしては、あまりに堂々としているのです。

石川は2019年のドラフト1位で地元・愛知県の東邦高校から入団しました。高校時代の3年春のセンバツでは、全5試合に先発登板していずれも勝利投手に。打者としても3本のアーチを描いて優勝の原動力となりました。

さらに、U-18ワールドカップでは全8試合で日本代表の4番を務め、24打数8安打で打率3割3分3厘、1本塁打、9打点という好成績を残し、同時に木製バットでの対応力も見せつけたのです。

ドラフトでは、中日ドラゴンズ以外にもオリックス・バファローズ、福岡ソフトバンクホークスが1位指名。結果、与田剛監督が“くじ運の強さ”を発揮して交渉権を獲得したのです。

石川を長距離砲、和製の4番候補として育てることは球団の責務でしょう。僕が見ている限り、仁村徹2軍監督からも「石川を大きく育てる」という方針が明確に伝わってきます。

ウエスタン・リーグのある試合で、石川が追い込まれながらも、うまく右前打を放ったのですが、仁村監督は石川を褒めることはありませんでした。いえ、むしろ軽打したことに、こう激怒していました。

「お前に求めてるのは、そんな器用なバッティングじゃないんだ。そんなのはベテランになってからでいい。本塁打か三振でいいんだよ」

僕もまったく同感でした。石川は軽打してヒットを打てる器用さも持ち合わせているのですが、やはり求めるのは遠くに飛ばすこと。

ヤクルトの村上宗隆、ジャイアンツの岡本和真、タイガースの大山悠輔や佐藤輝明……今やセ・リーグでは多くの和製大砲がクリーンアップを務めているだけに、石川にもそこに迫る存在になってもらいたいですね。

残念ながら2軍戦で骨折をしてしまいましたが、それすら糧にして、さらに大きくなって戻ってくる姿に期待しています。