世界一を争うトヨタvsVWは今後どうなる?
加藤 トヨタとVWは毎年トップシェアを争っていて、世界販売台数は共に年間約1,000万台、売上げ高30兆円とほぼ互角です。しかし、話題になっているLCA規制というのは、要するにVW側がトヨタに勝つ戦略を立てたわけですよね。これに対してトヨタは、どのように対抗するのでしょうか?
岡崎 「世の中のユーザーたちが、どういうクルマを求めているのか?」に対応していくことが第一だと思います。でも、国がEVに極端に有利な、EVを買うしかなくなるような規制を組むようなら話は別です。
例えば、イギリスは実際にそれをやろうとしています。2035年には、ハイブリッドも含めたガソリン車禁止、あるいはロンドン市内の中心部に乗り入れ禁止とかね。でも、そうした規制のない国や地域で、EVがどのぐらい増えていくかは、はっきりと予測できていません。
各機関がシミュレーションを出していますが、2030年の時点ではだいたい10~25%と予測している。どこも「EV100%」だなんて言っていない。だから、“EVをやった者勝ち”という状況には、まだまだ全然ならないわけです。
僕はクルマの専門家としても、VWのクルマがずっと大好きで、自分でも何台も買ってきました。だけど、最近のVWは、かつての良さがなくなってきています。おそらく、ディーゼルゲートへの賠償金とEV投資で、従来のガソリンエンジン車などは、今までだったらやらないような、あからさまなコストダウンをしてきています。
VWの稼ぎ頭は、今後もしばらくはガソリンエンジンあるいはハイブリッド車なので、そこでコケるとどうなってしまうかわかりません。その意味では、トヨタはVWより強いです。
加藤 となると、少なくとも2030年~2035年ぐらいまでは、トヨタがVWを引き離すと?
岡崎 バッテリーの価格が劇的に下がって、性能が劇的に上がって、充電インフラが劇的に改善されないかぎり、VWの賭けは失敗に終わる確率が高いでしょう。
マーケットに合わせるトヨタの緻密な戦略
池田 トヨタはマーケットに合わせると言っているわけです。つまり、お客さんが買ってくれるクルマを作る。それがハイブリッドだったら、むしろ「ほら見ろ」ですが、EVだったらどうするか? トヨタは「EVが求められれば、すぐに車種を増やす」と言っています。それを「そうなんだ」と受け止めるか「できるわけない」と受け止めるかの違いだと思います。
私のようにトヨタの経営取材、技術取材をしている身からすると「もうそんなことまでできるのか」と驚かされるわけですね。オフレコで聞いている話もあるから、全部を記事化できるわけではないですけど、調達でも技術でも、それはまぁ緻密な戦略がガチガチにできています。
加藤 トヨタには対抗できる戦略があるということですね。
池田 一番不安なのは、日本政府がドイツ(EU)に付きかねないということですよ。
加藤 日本の政府が? ドイツに!?
池田 “意図的に”ではなく“結果的に”です。日本の政治家はお人好しなので「そうですよねぇ、やっぱり環境が大事ですよね!」と、EUや国連に騙されていやしないかということです。気がついたときには、トヨタに敵対的なことをしてしまったり、トヨタだけじゃなくて日本の製造業全体に敵対的なことをしたりしかねない。特に環境省関連のコメントを見ていると、そう思います。
加藤 もう少し日本の経済を支えている現場を見てほしいです。彼らには働く人たちの顔が見えているのでしょうか。日本の国力を高める気があるのでしょうか。事態は深刻ですね。
岡崎 外国にいい顔をするのが政治家の仕事ではなく、自国の国民が豊かになり、幸せになることに全力を尽くすのが、本来の政治家の役目だと思います。
加藤 そう、それが圧倒的に欠けていますね。まさしく日本の経済を安定させること、それからやはり雇用を増やすことは非常に重要です。雇用は我々の日常です。それがなくなる恐れがあるなかで「人類のためなら日本を貧しくさせてもいい」という自己犠牲の精神だけでは国民はついていけません。それは日本の政治家の役割じゃないでしょう。
岡崎 康子さんが月刊『Hanada』で書いていらっしゃったように[加藤康子「小泉進次郎がEVで日本を滅ぼす」/『Hanada』2021年5月号掲載]、「カーボンニュートラル!」と大声で言っていれば名が上がる……ということが常識になっちゃうと、国民の一人としては、本当に悲しいことです。
池田 環境問題に名を借りた経済戦争が、すでにバンバン仕掛けられています。その口火を切ったのは中国です。一方で米国は、中国とやり合うために経済封鎖の道をとりました。欧州は環境規制で締め上げて、EUに有利な陣形を作り上げようとしています。
そのドンパチやっている最中に、ボーッと突っ立っているのが日本の政治です。むしろ、競争相手である彼らの言い分を真に受けて、環境のために国の経済活動を縮小しようとしているようにさえ見えます。「製造業なんてオールドエコノミーだから」なんていう間抜けな発言が漏れ聞こえてくると「本当の敵は“無能な味方”」という言葉を噛みしめますね。
加藤 そういった状況を多くの国民に気付いてほしい。EVを推進することよりも、どうすれば日本の自動車メーカーが次の時代に生き残っていけるのか、どうすれば日本でクルマづくりをしながら世界で戦っていけるか……ということを国民と一緒に考える、そういう政治であってほしいと心から願っています。
〇『EV推進の嘘 #8』 トヨタの真実 フォルクスワーゲンと中国は敵なのか?!(加藤康子・池田直渡・岡崎五朗)