イギリスのグラスゴーで「COP26」(2021年10月31日〜11月12日)が開催され「パリ協定に基づく地球温暖化対策をより強化する」ということが、あたかも常識事のようにニュースでは語られていますが、その実態と仕組みについて、多くの一般国民は実はよくわかっていないのが本音ではないでしょうか。
例えば、地球温暖化防止を口実に、太陽光パネルを設置することが奨励されていますが、そもそも再生可能エネルギーは安定した発電をできず、原子力や火力によるバックアップシステムなしには稼働することができません。しかも、そのために森林が伐採されたり、土砂災害を引き起こしていては本末転倒です。
また、脱炭素を口実に「ガソリン車廃止」を一気に進めようという声も聞きますが、バッテリーの生産量は、今世界が必要とする自動車の全台数をカバーできません。さらに、かなり多くの自動車産業従事者が失業する恐れも懸念されています。環境のために100万人単位の人が失業するリスクを、国民にきちんと説明したうえでの話でしょうか?
今、注目される新産業「EV」(電気自動車 / Electric Vehicle)をテーマに、加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が、誰もが気になる、脱炭素やカーボンニュートラル問題の根源といえる「パリ協定」について鼎談します。
※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
いまさら聞けない「パリ協定」
加藤 そもそもEV化、脱炭素、CO2削減の根拠になっている「パリ協定」(2015年採択)とはどういうものなのか、一度わかりやすくおさらいしておきたいと思います。
岡崎 いまさら聞けないところもあると思うので、これについてはしっかり押さえておきたいところですね。
池田 メディアに騙されないように、ぜひ自分の判断基準を持っていただきたいです。そのためには、やっぱり基本となるパリ協定は大事ですね。
加藤 パリ協定が2015年に採択されたあと、2017年4月に経産省が『長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書』を発表しています。これを読むと、4年前に日本の官僚の方々がパリ協定をどう見ていたかがわかります。また、問題の本質をよく捉えている中身なので、こちらを紹介しながら皆さんと一緒にパリ協定について考えたいと思います。
岡崎 この話題に行く前にひと言。皆さんも1度はどこかで見聞きしたことがあるかと思いますが「そもそも地球温暖化なんて嘘だから」という主張があります。これは「もしかしたらそうかもしれないし、もしかしたら違うかもしれない」という、真実がまだはっきりしない話です。
「神はいるのか、いないのか」みたいなもので、本当の答えは今すぐには見つからない。我々はあくまで自動車の専門家ですから、あえてそこには踏み込まないと池田さんとも決めています。だから、パリ協定について議論するときには「ひとまず、パリ協定で締結されている現実をベースに考えていくことにしよう」ということにしています。
加藤 確かに地球温暖化と温室効果ガス(大半がCO2)の関係は、学術的に確立された話ではありません。そもそも温暖化しているのかどうかも含めて、政府機関のなかでさえも多説あります。環境の専門家で、この問題に深く関わって来られた東京大学名誉教授の渡辺正先生に先日お話を伺いました。先生の「地球温暖化は放置すべき」という学説も紹介したいくらいなのですが(笑)。
岡崎 そのお話、興味ありますね(笑)。
加藤 ただ今回議論するのは、あくまでパリ協定を前提として「パリ協定で実際に謳われていることが実行されたならば、これから日本はどうなるのか?」また「実際に実行しなければならないことなのか?」ということです。私も経産省の方たちに何回も確認しましたが、それぞれの国が提出している自己目標が未達であったとしても、なんらペナルティはありません。
「ペナルティはないけど、真面目な日本政府が厳しいハードルを自ら課して実行しようとしている」というのが私の理解です。
岡崎 その前提でパリ協定の中身を見ると、驚愕してしまうわけですね?
池田 はい。パリ協定は2015年に採択された「国際気候変動会議」という枠組みのなかで決められました。同会議で何が決まったかというと「産業革命以前と比較して、地球の平均気温の上昇幅を2℃までに抑えましょう。できれば1.5℃までに抑えたいよね」ということ。これが全てです。
では、その2℃や1.5℃という数字がどうやって決まったのかというと、正直よくわからない。また、その目標をどうやって実現するのかというと「各国の皆さんがよく考えてプランを提出してください。そのプランがあまりにもヒドいと、世界の笑いものになりますよ。ということで、あとはよろしく!」というトンデモない協定なんですよ。
岡崎 だいぶわかりやすくなりましたね(笑)。