CO2削減・脱炭素・地球温暖化などが叫ばれるなかで起きていることとは、つまり「環境問題に名を借りた経済戦争」ではないだろうか? 2021年11月、英グラスゴーで行われたCOP26で、岸田首相は「これまで日本政府が表明した5年間で官民合わせて600億ドル規模の支援に加え、今後5年間で最大100億ドルの追加支援を行う用意がある」と表明しました。
経済戦争における“戦力”とは、企業の力と国の政策が相互に関係してきます。日本で最も“力のある企業”であるトヨタが、国益を大事にしない政治家のせいで、日本を見限り海外へ工場を移転してしまう日が到来する恐れがあります。政治家の役目は、外国のご機嫌を取ってお金をバラ撒くことではなく、自国民の生活を豊かにし、この国を、企業を、守り抜く事ではないでしょうか?
今、注目される新産業「EV」(電気自動車 / Electric Vehicle)をテーマに、加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が、脱炭素(カーボンニュートラル)やEV、エネルギーと日本のものづくりの大問題を徹底討論!政治家の責任を追及する!
※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
トヨタが日本からいなくなる日はくるのか?
加藤 それにしても、トヨタは非常に強い会社です。コロナ禍のこんな厳しい状況下なのに、財務状況はすごく良い。トヨタが今後LCAの影響で本当に大きなダメージを受けた場合、アジアではどうなりますか? アジアの国々は、家庭用電源が十分に足りていないので、まだEV化には時間がかかるでしょうから、日本車が今後とも強いんじゃないでしょうか。
岡崎 トヨタは、何があろうとおそらく大丈夫です。問題は「今後も日本にいるかどうか」です。
加藤 なるほど。……でも、本当に日本からトヨタがいなくなるのでしょうか?
岡崎 残念ながらその可能性はありますね。
池田 そうなるかどうかは、これから政府が決めていく規制がどうなるかに、かなり依存すると僕は思っています。
加藤 となると、ますます豊田会長の記者会見(2020年12月17日)の言葉は重いですね。これは、本当に……。
池田 重いですよ。
加藤 ものすごく重い。
岡崎 各メーカーの輸出比率を見てもわかりますが、メーカーによってだいぶ違う。トヨタ・スバル・マツダは日本でたくさん作って輸出しています。
加藤 日産やホンダは海外で生産している割合が多いけれど、スバルやマツダは国内生産の割合が多いですね。
岡崎 トヨタなどは特にですが、なぜ日本で自動車を作るのかといったら、日本の雇用を守るという意図が第一にありますよね。ホンダは海外に工場を持っているんですが、国内にも鈴鹿工場という大きな工場があります。「日本で売るための軽自動車は、なんとしてでも国内で死守」という信念で今もやっています。マツダは広島の地場産業を支えている会社でしょう?
加藤 そうですとも。地域の、広島の誇りです。
岡崎 だから、そう簡単には海外に移転しないと思います。日産は、外資系に近い考え方でドライな印象がありますが、それでも東北に工場を持っていますし、追浜(神奈川県)や九州などにも工場があります。
そう考えると、日本の自動車メーカーはもっと海外に出て行ってもいいはずなのに、それでも踏みとどまっている。やはり日本という“国”を、しっかり考えているわけです。ただ、そのなかでもトヨタは別格だと思います。
加藤 そうですね。国内の「自動車工場分布図」を見ても本当によくわかります。
池田 トヨタ・スバル・マツダの3社は、国内生産のクルマの約半分を輸出しています。その背景にあるのは、さっき五朗さんが言われた通り、国内雇用を守るということが一つ。そして、もう一つはマザー工場、すなわちクルマの製造技術を日々向上させて、自動車の未来を切り拓いていくための工場は、絶対に日本に置くんだという姿勢ですね。
トヨタが言うには、300万台の生産規模がないと、技術を開発・維持していけないそうです。輸出分を海外工場での生産に切り替えたとたん、その海外のどこかにマザー工場が移るんですよ。
加藤 それは大問題ですね。
岡崎 日本の技術も一緒に海外に出ていってしまう。
加藤 やはり、なんといっても製造時における改善は大切です。イノベーションは現場から生まれるのであって、オフィスからは生まれないのですよ。どの製造業でもそうです。いつだって現場から生まれてくるのです。