幽霊に加えてヤクザも登場する悪夢のパレード状態

3日目。同居人が聞き捨てならないことを言い出した。

「実はここ……出るんですよ」

「何が?」

「幽霊です。昨日も夜中に突然ガチャガチャ音がしたと思ったら、外国人の幽霊がトイレに入って出て行ったんですよ」

「19番、取り調べだ」

とんだ置き土産をして、彼は部屋から出て行った。1人きり。暗い部屋の中。自然と頭は幽霊のことを考えてしまう。そこに母からの差し入れが届いて、少しだけ気が紛れた。漫画だ。薬は無い。まぁいい。これで暇潰しができる。それに同居人が言い残した幽霊の話を忘れることができる。

だが、読んだことのある漫画で、数時間後には読み終わってしまった。再び頭に甦る幽霊の存在。ダメだ。お腹が痛くなってきた。部屋の右端にあるトイレで用を足した。水は自分で流せないため、看守にお願いしなければいけない。

「すいませーん」

誰も来ない。

「すいませーん」

誰も来ない。

「すいませーん、トイレ流して欲しいんですけど」

「うるせぇな! 何回も呼ぶな!」

奥から看守が怒鳴り声を上げて近づいてきた。何回も呼ぶなと言うが、多少なりとも理解を示すべきだ。1人で孤独だからといって、大便と共に過ごしたいとは思っていない。看守は舌打ちをして立ち去った。考えれば考えるほどイライラが募って爆発。手元にあった漫画を渾身の力で鉄格子に投げつけた。

「ガンっ!!」

大きな物音を聞いて、駆けつける看守。何も言わずにコッチを見ている。一触即発。睨み合いは続いたが、数秒後。看守が元の場所へ戻るのと同時に、トイレの水は流れた。同居人が戻ってくるまで、看守に対する怒りで幽霊の話は忘れていた。愚痴を聞いてもらおうと話だした瞬間に、今度は僕が取り調べに呼ばれた。昨日と同様に、根掘り葉掘り聞くスタイルは変わらない。

「どっちが最初に殴ったんだ?」

「俺だよ」

「パンチか? キックか?」

「パンチだよ」

「右手か? 左手か?」

「そんなの覚えてるわけねーだろ」

「今日は時間があるからな。5時間までなら思い出す時間やるぞ」

試しに黙っていたら、本当に5時間ずっと取調室に閉じ込められた。取調室は牢屋よりも狭い。もう心は折れかけていた。取り調べのあとは尿検査。健康診断のときと同じように、小さなコップを渡される。

「このまま外に行くぞ」

尿検査が終わって、次はベランダのような場所に移動した。ベランダとは言っても、公衆電話ボックスくらいの狭さで、上は吹き抜け。外の世界とつながっている唯一の場所だ。

「いいか? 今から5分だ。背伸びをしたり、外の空気を吸いなさい」

最初は必要ないと思っていたこの時間も、のちに大事な息抜きの時間へと変わっていく。このことを房に戻って同居人に伝えると、成人男性ならタバコも吸える場所だと教えてくれた。まだ3日目で、同居人と警官以外の姿を目にしたことはないが、一体ここには何人くらいの人がいるのだろう。

「う〜、う〜」

隣の房から聞こえる唸り声。ずっと聞こえている。うるさい。ただでさえ気が立っている状態で、耐えかねる状況だ。マンションの隣部屋が騒がしいときと同じように、壁を叩いた。

「なんだコラァ!」

大声を張り上げて、壁を叩き返す隣人。逆ギレも甚だしい。自分がうるさいという自覚がないのか。もう一度さっきと同じように壁を叩いた。負けじと相手も叩いてくる。この応酬は何度も繰り返された。

「120番! 黙ってろ」

ざまぁみろ。警官も悪いのは相手だとわかっている。あとで同居人に聞いたら、隣はヤクザだとわかった。最悪だ。もし、なんかしらの形で顔を合わせてしまったらどうしよう。知らずに壁を叩いてしまいました、では済まなそうだ。看守ともいざこざを起こしたばかり。相手が暴れ出したときに、僕を守ってくれる保証はない。果たして、僕は無事にここから出ることができるのだろうか。

「45」は、次回1/28(金)に更新予定です。お楽しみに!!


プロフィール
 
福田 健悟(ふくだ けんご)/吉本興業所属
平穏な家庭に育つも、高校生になり不良の道へ。地元、岐阜県で最大の規模を持つ不良チームのリーダーとなる。18歳の頃、他チームとの抗争が原因で留置所に2週間、鑑別所に2週間の計4週間を更生施設で過ごす。週に1回の入浴、美味しくないご飯、笑うことが許されない環境で生活をして当たり前の日常の大切さに気づく。そもそも子どもの頃になりたかったのは、お笑い芸人だった。周りにナメられるのが嫌で言い出せなかった。不良を演じて虚勢を張っていた。出所後は本当の自分になることを決意し、お笑い芸人を目指して上京する。わずか10万円を握りしめての東京生活。コンビニでアルバイトをしながらも舞台と日常を分けずに常に芸人としての自分を貫く。すると近所で評判のコンビニ店員になる。「あのお兄さん大好き」「接客のプロ」とたくさんの称賛をいただきながら実感する。人は変われる——。世間から忌み嫌われていた不良が世間から愛される人間に更生した。人生における全ての「負」から立ち直った経験を生かして、他人のありとあらゆる「負」も更生する。つまらない時間を面白い時間に「更生」するため、お笑い芸人として活動中。Twitter→福田健悟@ganeesha_fukuda