初の著書『僕はロックなんか聴いてきた』(リットーミュージック刊)をもとに、洋楽ロックを深く愛する永野の真剣で、潔癖で、真面目で、繊細な音楽偏愛を解き明かします。彼がどれほどの洋楽ロック好きかが垣間見えるエピソードが、伝説の第一回フジロックに参加していたこと。その時、永野はレッチリが見れたら死んでもいいとさえ思ったという……。

 

「レッチリ見れたら死んでもいい」と思った

――永野さんは1997年、第一回のフジロック(※)に行ってるんですよね。日本ロック史に残る伝説の一日を体験している。

永野 行きました! それこそ『CROSSBEAT』の特集読んで「こんなの行くしかない!」と思って。夢のようなラインナップだったじゃないですか。レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、プロディジー、フー・ファイターズ……。

うわぁ! と思って、行って。前に話したオアシス好きな人も行ったんですけど、そいつ、台風来て「これは状況がヤバイから」みたいなこと言い出して、レッチリ前に帰ろうとしたんですよ! 「何考えてんの? ホントこいつダメだな」と思って。僕は、別にこれで死んでもいいんじゃないか? とか思って(笑)。レッチリ見れたら死んでもいいじゃんって。

(※)第一回のフジロック……1997年、日本初の国際的ロック・フェスとして開催されたが、台風が会場を直撃し大惨事に。2日目は中止になった。

――暴風雨に打たれて全身びしょびしょのぐちゃぐちゃ、私は低体温症になりましたけど、今思えば楽しかったですよね。

永野 最高でした! 全然みんな楽しそうでしたよね。そのあと雨風の中、レッチリのステージで寝ましたもん、俺。ここで寝かせてくださいって言って。ホントとんでもなかったですよね。その数年後にサマーソニック(※)とか始まって、その映像見ると「あれ? なんだ、幸せじゃん」って思った(笑)。

そこからフェスが定着してくると、みんなタオルとか頭に巻き出して「何?」みたいな。あとカップルで民族衣装みたいなの着て「環境のためにできることをやりましょう」みたいな。ロックだったらタバコ捨てろよ!(笑)。

(※)サマーソニック……2000年から始まった都市型フェスティバル。千葉と大阪で同時開催され、国際ロック・フェスでは30万人という最大級の動員数を誇る。

 

――フジロックはクリーンなフェスです。

永野 いや、わかってますよ。ダメなんだけれども、ロックのためには多少の猥雑さがあってもいいと思うんですよ。なのに、何にもなくてみんなで盛り上がってる感じが気持ち悪い。差別とかあるからこそレイジのライブが熱く盛り上がるんであって。

――いいか悪いかは別にして、危うげなものはどんどん無くなっていますね。

永野 無くなっててホントつまんないすよ。民族衣装着てるやつが変な楽器持って演奏したりして、そういうの見ると「おまえ、本当にそれが好きなの?」と思うんですよ。本当はレッチリ好きなんじゃないの?って。カッコいいのはレッチリじゃないですか。それなのに民族衣装で「ボヤ~ン」ってサイケみたいな音楽! 日本に生まれてそんな嗜好、ウソじゃないですか。

――いやいや、それ言い出したらヒップホップとかもNGになりますから(笑)。

永野 まあ、難しい問題ですよね。ロックっていう表現もなくなりつつありますしね。

――今「ロック」っていうと、カッコいいというよりは、ちょっと蔑むようなニュアンスが入ってるのを感じますよね。「あの人、ロックだよね」ってあんまり褒めてない(笑)。

永野 俺が一番イヤなのは「Keep on Rockin’」とか言って、ごまかしてるやつが嫌いなんですよ。普通の幸せも破滅的なカッコ良さもどっちとも欲しいやつじゃん、と思って。やっぱりニルヴァーナみたいに死んだりとかするのが好きで。

――そんなふうに、根っこにロックがあると大変じゃないですか。日常生活に「ロックか、ロックじゃないか」っていう価値観があると、ロックであろうとするためにヤバい選択をしてしまうことがある。

永野 わかります。人間だから俺も嫌われたりするのって、本当はイヤなんですけど、それでもあんまり人から「いいですね」って言われると不安になってくるので、「俺、こんな一般のやつとリンクしちゃったんだ」って思っちゃうんです。カート・コバーンとかジョン・フルシアンテの生き方って共感しないじゃないですか。ちょっと距離があるのが好きなんですよ。でも最近の芸能人って「隣にいる感じ」が気持ち悪い。ちゃんと死んでいなくなるとかしてくれないと(笑)。

――そうですね、距離を詰めさせてくれない人が魅力的なのはわかります。

永野 ですよね。カート・コバーンなんかSNSやってたら、ずっと炎上してると思います(笑)。でもそれでいい気がしてて。友達になるつもりはないし。

――永野さんの芸風にも、そういう「孤高」な感じがのっぴきなく表れてますよね。

永野 そうです。のっぴきならない。ニルヴァーナの『ライヴ! トゥナイト・ソールド・アウト』(94年)をよく観たんですけど、それでカートが言うんですよ。「学校で騒いでるやつじゃなくて、隅っこでタバコ吸ってるやつと仲よかった」って。で、アクセル・ローズの悪口とか言うんですけど、それがカッコいいんです。

そう、だから俺がオアシスに対して怒りがあるのは、カート・コバーンが現れたとき、俺は「自分の時代が来た」って思ったんですよ。でも、オアシスがそれにとって代わって、結局、脈々と続く、妙に明るいやつの時代になっちゃったじゃないですか。