2022シーズンでは、千葉ロッテの佐々木朗希投手が完全試合を達成、ソフトバンクの東浜巨投手とDeNA今永昇太投手もノーヒットノーランをするなど、ピッチャーの活躍が目立ちます。プロ野球審判生活29年で通算2414試合出場し、プロ野球を文字通り“もっとも近くで見てきた”元審判の佐々木昌信氏に、印象に残るスゴいピッチャーについて教えてもらいました。

※本記事は、佐々木昌信:著『プロ野球 元審判は知っている』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「判定不要」真っ向勝負の藤川球児

阪神の藤川球児投手は、ゆったりとした投球フォームから、えげつないストレートを投げ込みました。世間でいわれる「火の玉ストレート」。

藤川投手は基本、ストライクゾーンだけを狙って勝負してくるので、バッターは打ちにいって、ほとんどが空振りか、完全に外れたボール球なんです。よく冗談で言いました。

「藤川投手の場合は判定不要。プレイをかけたら、立っておけばいい」

だからストライク、ボールの判定をした記憶があまりないわけです。誰が見ても空振りか、誰が見てもボールか。「これがプロの真っ向勝負だよな」という印象でした。

藤川投手のボールは、初速と終速の差があまりなくて、ホップしてくるように感じるといわれます。実際、「ボールの軌道の2個上を狙ってバットを出す」と言う選手の話も聞いたことがあります。

しかし、いわゆるホップするボールは物理的にもあり得ないので、審判の目から見てそれは感じたことはありません。

ただ大砲を「ドーン!」って打ち込まれたイメージなんです。29年の審判生活でそう感じたのは、藤川球児と巨人にいたマシソン(2012年~19年)だけです。同じ系統のストレートでした。春のキャンプで広島(当時)の鈴木誠也選手に興味深い質問をされたことがあります。

「いま日本でストレートが一番速い投手、勢いのある真っすぐ、誰ですか?」

「そりゃ、阪神の藤川と、巨人のマシソンよ」

「よかった。僕も全く同感です。審判さんの目と同じか確認したかったんで」

こちらも逆に強打者と同じ感覚だったのでホッとしました。

菅野智之と千賀滉大。ノーヒットノーランの思い出

「ノーヒットノーラン」投手について話します。

2018年のクライマックスシリーズ。巨人の菅野智之投手が、神宮で行われたヤクルトとのファーストステージ第2戦で、ノーヒットノーランを達成しました。9回7奪三振1四球。あの試合の球審が私です。

左バッターのインコース、右バッターのインコースのストレートだけは素晴らしかったんですが、調子は悪くて、ほかの変化球は構えたミットに対して「逆球」が多かった。ヤクルト打線がずっと打ちあぐねていたんです。

リードする小林誠司捕手も困っていました。

「きょうの菅野は落ち着かないです」

「って……、まだパーフェクトだぞ。こっちもプレッシャーかかるよ」

7回ツーアウト、山田哲人選手がフォアボールを選んでパーフェクトゲームは途切れましたが、結局ノーヒットノーランです。

「完璧な状態じゃないときほど、意外とああいうことが起こるもんだね」

後日、小林捕手と話したものです。

2016年から3年連続防御率1位の菅野投手とともに、「セ・パを代表する名投手」の名声を獲得するのがソフトバンクの千賀滉大投手。160キロ級ストレートと落差の大きい「お化けフォーク」を武器として、2016年から6年連続2ケタ勝利、19年にノーヒッターになっています。

私が球審を務めたのは、その19年だったでしょうか。千賀投手は虫の居所がわるかったのか、なぜかド真ん中しか投げなくてパカンパカン打たれて、甲斐拓也捕手がマウンドにたしなめに行っていました。

「なにやってんだ、お前。そんな気持ちだったら代われ!」

しかし、ノーヒットノーランを達成した試合、2人のうれしそうな顔をテレビのスポーツニュースで見ました。2人とも2011年の育成選手からの叩き上げですよね。

甲斐捕手の思いに千賀投手が応えて。20年に最優秀バッテリー賞に選ばれて。いいバッテリーですよね。ああいうシーンを見ていると審判としてもうれしいです。