永世中立国のスイスがロシア制裁に加わった衝撃

石平 第6に、共産党の高官にとってショックだったのは、プーチン大統領だけでなく、オリガルヒやロシア政府高官も金融制裁の対象にしていることです。特にスイスが口座を凍結したことは、ショックだったに違いありません。

「永世中立国」でありEU非加盟国であるスイスが、“中立的立場”であるという自身のアイデンティティーをかなぐり捨ててまで、ロシア制裁に加わったのですから。現にスイスは、2014年のクリミア危機では、迂回路として利用されることを避けるためだけの措置にとどまり、ロシア制裁には加わりませんでした。

しかし、今回初めてスイスはEUの制裁パッケージの全面導入を決定した。欧州の団結を示す象徴的事例になったわけです。

これまでは、スイスの銀行口座に預けていれば絶対に安全だったと思っていた中国共産党の高官たちも、欧米やスイスの銀行に隠し財産を預けているから影響が大きい。中国人にとっては、“民族の大義”よりも“個人の財産”を守ることのほうが死活的に重要です。

以上の理由から、習近平主席は簡単には台湾併合戦争に踏み切れないと思うのです。

▲環太平洋合同演習 出典:ウィキメディアコモンズ(パブリックドメイン)

エルドリッヂ 台湾侵攻が早まるのか遅くなるのかはわかりませんが、中国が戦術を見直していることは間違いありません。

なぜウクライナにおけるロシアの作戦がうまくいってないのか。あるいは世界各国の反応はどうか、どのような制裁措置にでたのかでないのか。そして、台湾と一番関係する周辺国がウクライナの情勢に対してどう動くか、日本がどう対処しているのか。中国は非常に細かく分析していると思います。

ただし、全体の流れとしては、中国の台湾侵攻は止められないでしょう。前述のように政治的・外交的にタイムラインがありますが、中国の立場に立つなら、宇宙戦が優位なうちに、日米台が一体になる前に侵攻したいはずです。

ウクライナの事情が完全に台湾に当てはまらないのは、台湾が「国」ではないからです。加えてNATOのような組織がアジアにはないからです。

※本記事は、石平×ロバート・D・エルドリッヂ:著『これはもう第三次世界大戦どうする日本』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。