北海道で土地を爆買いしている中国人が、なぜか北部の土地には手を出していない。それは「ロシア軍が北海道に侵攻する可能性があるからだ」――まことしやかに囁かれる怖い話がある。

中国そして中国人の裏のウラまで知り尽くした石平氏と、米国の政治学者エルドリッヂ氏が精魂を込めて語り合った「日本のための防衛論」。この二人だからこそわかる中国と米国の「本音」を聴いてみよう。

危機感のない日本人に刺激的な話をしよう

石平 ウクライナ戦争以後も、日本政府の対応は相変わらず鈍い。“平和ボケ”していると散々言われ続けてきた日本国民ですら、“プーチンの核”、中国の“台湾侵攻”への脅威と向き合おうとしているのに対し、政府は百年一日のごとき対応です。

核武装の議論をしないばかりか、“核シェアリング”の有無について議論を呼びかけた安倍晋三元首相の発言を、政府みずからが否定したのです。日本は「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則ならぬ、「言わず、言わせず」を加えた“非核五原則”だという元首相の批判もむべなるかなです。

国土の周囲を、世界有数の核保有国であるロシア・中国・北朝鮮に包囲された、比類のない危険地域にある国の政府の対応とは思えません。繰り返しますが、あまりに鈍すぎます。

今は帰化して日本人になった私ですが、生を受けた中国では、文化大革命や天安門事件といった、独裁政権が自国民を殺すことになんの躊躇も見せない国で育ってきました。

また、対談相手のロバート・D・エルドリッヂさんは、言うまでもなく世界一の軍事大国であり、第二次世界大戦後も紛争・戦争を繰り返してきたアメリカの国民です。そうした“外国人”だからこそわかるのですが、日本の危機感の無さは、異常を通り越して異様でさえあります

▲ロシア軍によって破壊されたウクライナの街 SYNEL / PIXTA

エルドリッヂ 都内の老舗ホテルに宿泊したのですが、そこでは政治家の政治資金パーティーで盛況でした(笑)。議員たちは、2022年7月の参議院選挙に向けて余念のない様子です。こうして貴重な時間が、あっという間に過ぎ去っていきます。

ウクライナ戦争を皮切りに、中国の台湾侵攻の危険性が日増しに高まり、どのタイミングで第三次世界大戦が勃発するかわからない状況に日本と世界は置かれているというのに、政府もメディアもまるで自覚がない。ウクライナも台湾も、しょせんは“対岸の火事”だと思っているのでしょう。

▲2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナへの全面侵攻 出典:ウィキメディア・コモンズ

石平 そこで私は、少し刺激を与えるようなことを言いたいと思います。2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻から3カ月以上が過ぎたわけですが、当初、プーチン大統領が目論んでいた“電撃作戦”は失敗に終わった。欧米諸国の武器支援に支えられているとは言え、ウクライナ国民の超人的な抵抗は続き、長期戦の様相を呈して始めている。少なくともウクライナを超えてNATOを正面から突破する力はロシアにはないし、する気もない。

しかし、プーチンは国民に向けて、どこかでこの劣勢を挽回する姿を見せる必要がある。そこで、西側に向いていたロシア軍を急転回させて、手薄な極東を攻める可能性があるのではないか……。つまり、狙われているのは日本の北海道です。

実際、ロシアの政党「公正なロシア」の党首であり、10年近く上院議員長を務めた大物政治家のセルゲイ・ミロノフは「ロシアは北海道の権利を有している」と、党のホームページで表明したといいます。

▲セルゲイ・ミロノフ 出典:http://www.senat.gov.pl/(ウィキメディア・コモンズ)

もしプーチン大統領が、習近平と本当に手を結んでいるとしたら、手負いのロシアが中国にできることは何か? 経済力がないので、あとはエネルギーと軍事協力しかない。台湾併合への野望を隠さない習近平主席にとって、ロシアの北海道侵攻は、北方と南方に自衛隊と米軍を分散させ、二正面に追い込むという意味で、またとない格好のアシストになりえます。

中ロに北朝鮮が加わり「悪の枢軸」が完成した

エルドリッヂ 今のお話は十分想定できることです。プーチン大統領にとって、極東政策は積年の課題であり、ウクライナ戦争の戦況を問いません。大陸国家ロシアにとって、極東は“太平洋の玄関口”といって過言ではない。ロシアがアジア太平洋に進出するためには、この地域の開発と統合が必要ですが、実際はほとんど進んでおらず、日本と同様に少子高齢化と人口流出により過疎化が進んでいます。

サハリン南東のコルサコフの沖合から稚内までは50㎞と目と鼻の先の距離にあり、ロシア軍による北海道侵攻は、今日まで日本にとって脅威であり続けています。4月14日にロシア国防省は、黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の沈没を発表しましたが、これによりその脅威がますます高まりました。

▲「ロシアの軍艦よ、くたばれ」を題材としたウクライナの切手。沈没の2日前に発行された。巡洋艦モ スクワに中指を立てるウクライナ兵が描かれている 出典:ウィキメディア・コモンズ

というのも、「モスクワ」が就役したのは1983年ですが、ソビエト崩壊後の1999年に、ウクライナ南部クリミアにある軍港セバストポリを拠点とする「ロシア黒海艦隊」の旗艦となって以降は、2008年の「ジョージア(グルジア)侵攻」、2015年の「シリア内戦」にも派遣されたロシア海軍の主力です。つまり、「モスクワ」を失うということは、黒海の制海権を失うことを意味します。

加えて、黒海とエーゲ海・地中海を結ぶボスポラス海峡を、トルコが「有事」であると宣言し閉鎖しているため、ロシア・ウクライナ両軍は外洋に出られなくなっています。また、本来“中立の海”だったはずのバルト海も、スウェーデンとフィンランドが、これまで保っていた中立国の立場を捨て、NATO入りに動き出したため、不凍港のバルト海も使い勝手が悪い状況にあります。

こうした状況を打開するために、ロシアは不凍港を求め、北海道北端の宗谷海峡や津軽海峡、北海道に侵攻するという話が実際にあるそうです。また別の人は、「北海道を爆買いしている中国人も、北部の土地にはあまり手を出していない。なぜなら、ロシア軍が北海道を侵攻するリスクがあるからだ」と、まことしやかに話していました。真偽のほどは定かではありませんが、非常に興味深い話です。

▲ボスポラス海峡 chuckhsu / PIXTA(ピクスタ)

※本記事は、石平×ロバート・D・エルドリッヂ:著『これはもう第三次世界大戦どうする日本』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。