定食屋を越えるメニュー数

その日は朝から撮影の仕事があり、電車に乗って都下へ向かいました。撮影自体は30分ほどで終わったので、さあ帰ろうかと思ったら、ちょうどお昼どき。「どうせだったら何か食べて帰りましょうか」と一緒にいたスタッフに声をかけました。

駅の周辺に行けば、いくらでもお店はあるでしょうが、撮影場所は駅から車で10分ほどの場所にあったので、近くに何かいいところはないかと探したところ、どうにも気になる店を見つけたのです。

▲左の中華屋も魅力的でした

それが、こちらの「エポック」。ちょっと大きめのバス通りに面しています。交差点近くの一角に、なぜかポツンと3軒だけお店が並んでいて、「お食事&喫茶」というファサードが目に入ったんです。

なんだか雰囲気が良さそうじゃないですか。大きな道路に面しているので、車だったら通り過ぎてしまうような立地なんですが、せっかくなので立ち寄ることにしました。

▲食品サンプルはなく、なぜかビール瓶が…

店の前に立った瞬間、私はハートを打ち抜かれました。なんて素敵なディスプレイなんでしょう。喫茶店というより、食事がメインのようですが、とにかく趣のあるショーケースじゃありませんか。

食品サンプルで見せようという気はさらさらなく、ほぼ概念です。ある意味ミニマルでスタイリッシュ。素晴らしいと思いませんか。

▲レトロなイスもかわいい

重たいドアを開けると「いらっしゃい」の声。小さめの店内には、テーブル2つとカウンターに座席がいくつか。外から見たら真っ暗だったから、やってないかと思ったけど、どうやら遮光性の高いガラス戸だったようです。外からは窺い知れなかったけど、内装も雰囲気抜群。気合と年季の入った店を切り盛りするのは、やはりベテランらしいお母さんでした。

▲素敵なメニュー表じゃありませんか

喫茶店に入ったつもりでしたが、もはや定食屋さんと言ったほうがいいでしょう。とにかくメニュー量が豊富。もう、目移りして何を頼んだらいいのか全くわからない。

「おすすめは?」と聞いたら「なんでもいいですよ」という、おっとりした返事が返ってきます。「よく出るのは?」と聞き直すと「唐揚げなんか人気よねえ」と、これまたおっとりしたお返事が返ってきて、都心にはない安らぎを感じます。

しばし悩んだ末に、私はサービスランチのメンチカツ定食、同伴者はポークソテーを注文して、さらにおすすめの唐揚げも単品でいただくことにしました。

▲まずはビールで給水タイム

主治医の先生、ごめんなさい。ここ最近、痛風の発作が出ないのをいいことに、ビールを頼んでしまいました。酎ハイもうまいけど、やはりビールはうまいんです。暑い日の王様はビールだと思います。ビールのいいところを3つあげます。

「うまい」

「色が綺麗」

「どんな店でも味がぶれない」

はあ、お疲れ様。まだ朝の11時だけど、今日は閉店ガラガラ。自分の仕事モードをオフにしたら、これからやってくる料理への期待は一層高まるばかりです。

▲メンチカツ定食600円。ざっくりキャベツとハムがいい

しばらくすると、注文した品が続々とやってきました。思わず声が出ました。「真っ黒だ!」。店内の照明が暗いからかと思ったら違いました。上にかかっているのは濃厚なデミグラスソースで、一口食べると、その香ばしさが脳天を突きます。

おそらく時間をかけて煮込まれているのでしょう。深い味わいは、店の看板を背負っているという自負と歴史を感じさせます。

メンチもおそらく自家製で、中身のタネがジューシーだからクタッとした食感で、この濃厚なソースと相性が抜群。キャベツと一緒に口に運ぶたびに「これはたいそうなご馳走だ」と、ため息がこぼれます。