吉祥寺の街に溶け込む渋うま喫茶

吉祥寺という街は、なんでこんなに人を惹きつけるんでしょう。駅の改札を出ると、すぐに広がる猥雑な街並み。池にボートの浮かぶ大きな公園に向かえば、昼からやってる飲み屋がいい香りをそこら中に撒き散らしていて、酒飲みはソワソワ。

昼間はお金持ちそうなマダム、夕方はサラリーマンが、我が者顔で闊歩しているのがいいんだな。二子玉川みたいにセレブに特化してないから、昼と夜で住み分けができている。だからこの町にはパワーがある。夕暮れの吉祥寺もまた魅力的です。

▲素敵な看板に惹かれます

夕方、私は吉祥寺の駅に降り立ちました。この日は、私の好きな漫談家「街裏ぴんく」のライブがあったので、普段は縁がない街に足を運んだのです。生活する沿線がまったく違うから、普段から吉祥寺は用事がないと来ません。

でも、その高名は私の住む目黒線沿線まで響いていて、さぞかし素敵な街なんだろうとは思っていました。公演開始が19時で、少しお腹が空いたなあと背中を丸めて歩いているときに見つけたのが、こちらの「カヤシマ」でした。いい街というのは、ふらりと訪れたときに、その実力を感じさせるのだと思ったという話です。

▲店内に飾られた手書きのおすすめメニュー

こちらの店は喫茶店に分類されているようですが、明らかに、喫茶店とは少し違った雰囲気をまとっていると感じたのは、その空気にありました。店内には、なんだかおいしそうな匂いが漂っていたからです。

その正体はのちほど判明するのですが……まずは座ってメニューを拝見。このあと19時から公演で、このときは夕方17時半。喫茶店のいいところは、飲み終わったあとも、少しのんびりできることです。

▲マッハの速さで提供されるビール

ということで、口開けはビールからいきましょう。痛風の発作も最近は出てないし、今日は暑かったし。

街裏さんの講演の成功を祈念して乾杯。楽しみにしているイベントの前に酒を飲む、というのはいいもんですね。旅行先に向かう朝早い新幹線の座席で、駅弁と一緒にビールを開けるような背徳感があって、私は興奮してきました。

▲ほろほろに煮込まれた牛スジとビールの相性が抜群

ビールを運んでくれた女性に「初めて来たので、おすすめがあれば」と伝えると、こちらが人気ですと出されたのが、牛スジ煮でした。店内に充満するハッピーな香りの犯人は、この子でした。とてもやさしい甘さで、牛すじもほろっと口の中でとろける。これはビールが進むつまみです。きっと毎日丁寧に仕込んでいるのでしょう。くたくたになる手前の絶妙な歯応えを残した大根がいいですね。