日本では、東京ヤクルトスワローズ・村上宗隆選手の史上最年少三冠王、シーズン本塁打記録更新に期待が高まっていますが、海の向こうでも、昨年に引き続きロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手が大活躍。
2年連続となるMVPの最有力かと思いきや、信じられないペースで本塁打を積み重ねている選手がもう一人います。その人物とは、ニューヨーク・ヤンキースの主砲、中堅手のアーロン・ジャッジ選手。
これまでの歴史を振り返っても、おそらく一番ハイレベルな争いであろう2022シーズンのMVP争い。はたして、どちらの手に輝くのでしょうか。
歴史を塗り替える躍動が止まらない大谷とジャッジ
現在、MLBのアメリカンリーグでは、二人の化け物が大暴れしています。
一人目はお馴染み、日本国民のヒーロー・大谷翔平選手。今季も二刀流選手として、ピッチャーとして防御率2点台、ヒッターとしてホームラン30本以上を打つなど、エリート級の成績を残していて、同じ日本人なのか……というより、同じ人間なのかと疑うような活躍をしています。
そして二人目は、名門ニューヨーク・ヤンキースの主砲、中堅手のアーロン・ジャッジ選手。本記事執筆時点(9月7日)では、ホームラン54本を放っていて、シーズン残り27試合でア・リーグのシーズンホームラン記録61本(1961年に同ヤンキースのロジャー・マリス選手が樹立)を塗り替えられるかに注目が集まっており、大谷選手同様に超人と言っても過言ではない成績を叩き出しています。
さて、現在MLBコミュニティーでは、メディア・ファン共に「どちらがMVPに値すべきか」という論争で白熱しております。
当然ではありますが、日本人としては自国の英雄に勝ってほしいので、「大谷MVP論」が日々ネットニュースやSNSを賑わっております。しかし、ここで私は敢えてジャッジ選手をMVPに推させていただきます。
いえ、日本が嫌いではありません。アジアンヘイトでもありません。逆張りで優越感に浸っているわけでもありません。むしろ、この記事の執筆依頼をいただいたときには、批判の火炎柱に飲み込まれながら、発信者生命に終止符が打たれるビジョンしか浮かびませんでした。
ただ、大谷選手が歴史を塗り替え続けているなか、じつは同じくらい史上稀に見るレベルでの大活躍をしているジャッジ選手にも、ぜひ注目していただきたい。その思いだけで、この記事を書いています。どうか私の釈明をお読みください。
2022年MVPレースの成績を比べてみる
まずは、二人の成績を見ていきましょう。
まず目に入るのが、ジャッジ選手の圧倒的な打撃成績。ほぼ全ての項目で大谷選手を上回っているどころか、ア・リーグ全体1位の数字を残しています。
いかに突出した成績を残しているかを示すために、MLB平均を100とした場合の打撃出力を測る指標「wRC+」を見ますと、ジャッジ選手のwRC+は202、と平均的な選手の倍以上の打撃貢献をしています。
どれだけすごいことかというと、シーズンを通してwRC+を200以上記録した選手は、MLBで歴代5名のみ。そのうち2000年以降に達成しているのは、ドーピングをしたとされているバリー・ボンズ選手のみです。シーズン終了までに、この数値を達成できれば、これもホームラン記録に匹敵するレベルの歴史的快挙となります。
一方で、大谷選手もwRC+は143と平均より43%多く打撃貢献をしています。そして、忘れていけないのは投手としての成績。
こちらも、MLB平均を100とした場合の投球出力を測る指標「ERA-」では、65と平均より35%多く投手貢献をしています。
今季において、打者としてのジャッジ選手が、打者としての大谷選手を大幅に上回っているのは歴然としているなか、問題となるのが「大谷選手は、ジャッジ選手に打撃が劣っている分以上の投球成績を残しているか」となります。ただ、当然ながら打者成績と投手成績を、そのまま比較しようがありません。
そこで「野球選手の貢献度」を総合的に表す、WARという指標があります。
現地メディアなどで主に採用される総合評価のWARは、Baseball Reference社及びFangraphs社が算出している2種類ですが、現時点ではいずれもジャッジ選手が上回ってはいます。
ただし、このWARの指標自体の妥当性については、導入時から議論が重ねられており、特に大谷選手がデビューを果たしてからは、「二刀流」の貢献を正しく捉えているか、という点についても常に話題になっています。なので、キャッチオールな指標ではなく、あくまでも判断材料の一つとして捉えるべきだと個人的には思っています。
WARベースで、ジャッジ選手がリーグトップ=MVPに値する、というわけでは必ずしもないのです。実際、MVP投票に限らず新人王やサイ・ヤング賞などでも、候補者のなかでWARがトップだった選手が選出されないケースも多々あります。イメージでは、0.5WAR前後以内であれば、他の要因を理由にWARが低い選手が選出されても十分正当化できます。