圧倒的ハイレベルな争いを制するのはどちら?
さて、結局は表面上の成績のみでは結論に至れないとなると、最後の判断材料は「ストーリー」しかありません。
90年代であれば、MVP=優勝チームで一番活躍をした選手、と同義扱いでしたが、今のメジャーでは、そこはあまり重視されずにいます。
ここで注目していただきたいのは、所属チームの優勝争いではなく、「そのチームの勝利への直接的な貢献」です。
ここでWPA(Win Probability Added)という指標を見てみましょう。
WARは、野球選手としての貢献度を、ポジションや外部要因(球場やチーム、ピッチャーの場合はチームメイトの守備)を考慮したうえで、なるべく平等に見るべく、さまざまな調整が入っている理論値ですが、WPAは実際に「チームが勝つ確率をどれだけ上げたか」を指します。
例えば、10点ビハインドでの特大ソロホームランは、勝利の確率をほぼ上げません。一方で、打ち損じのボテボテサヨナラヒットは、勝利の確率を100%へもっていきます。
WARであれば、前者のほうが(特大HRは打者としての高い能力の結果なので)評価されるところ、WPAでは後者のほうが評価されます。つまり、WARが選手の能力を正しく表しているが、結果主義の野球ではWPAのほうが「実際にどれだけ勝利に貢献したか」という意味では、妥当な指標かもしれません。
その点、現在WPAでもWARでもリーグ1位のジャッジ選手は、理論上も実態も最も貢献度が高いと言えるのではないでしょうか。
ちなみに、ジャッジ選手は今シーズン勝ち越し打を23本、うちサヨナラヒット4本(ホームラン3本)を放っています。大谷選手は(チーム全体として勝てていない点もあり)今シーズンの勝ち越し打は14本、サヨナラヒットはありません。
注目される「ドーピングなし」のホームラン記録
さて、大谷選手は二刀流という前代未聞な活躍を続け、日々「史上初」「ベーブ・ルース以来2人目の快挙」といった記録を量産しています。
最も顕著な記録は、
- 史上初めて投手としての規定回数及び打者としての規定打席を同時到達
- ベーブ・ルース以来100年以上ぶりの2桁勝利+2桁ホームラン
※規定回数+規定打席到達は「見込み」となります
ではないでしょうか。普通であれば、こんな歴史的な快挙に叶う選手はいません。
唯一、今年のアーロン・ジャッジが、その快挙に匹敵する記録を達成しようとしています。それが前述の「アメリカン・リーグのホームラン記録更新」。
「メジャー記録ではなく、アメリカン・リーグ記録? ナショナル・リーグ記録も上回らないと、大谷選手の快挙に敵わないのでは?」と思われるかもしれません。
このア・リーグ記録は、「ドーピングなしのホームラン記録」「真のホームラン記録」とも言われており、更新をすれば「ドーピングをした選手を除けば史上初」となります。
現在、NPBでもヤクルトスワローズの村上選手が、同バレンティン選手のシーズン記録60本を超えるか注目されていますが、MLBでもほぼ同様の見方がされています。(逆に、ドーピングをしていない選手が、2001年にバリーボンズ選手が樹立したメジャー記録の73ホームランを超えられるのは不可能だと思っている人が、ほとんどではないでしょうか)
このように、ジャッジ選手が61本を超える「62本」を達成すれば、大谷選手の数々の快挙に張り合えるレベルの「史上初」を達成するのです。
仮に、このままジャッジ選手がWARとWPAの双方でリーグ1位を死守しつつ、ホームラン記録を更新することで、文字通り歴史を塗り替えることができれば、私はジャッジ選手がア・リーグMVPを獲得すると考えています。
一方、大谷選手が調子を上げて、WARやWPAなどの指標でジャッジ選手を追い抜いたり、二刀流で更なる快挙を乱立した場合には、大谷選手のMVP連覇は十二分に有り得ると思いますし、両者がここまでのペースでシーズンを終了したとしても、大谷選手がMVPを獲得する可能性も相応に高いと思います。
本当にそれだけわからない、極めてハイレベルな接戦を繰り広げています。
ある意味、大谷選手が今年の活躍を他の年にしていれば、MVPは満場一致であったところを、唯一張り合えるレベルの成績を今年のジャッジ選手が残してしまったことが不運だったかもしれません。
しかし、歴史的なシーズンを過ごす2選手を同じシーズン、そして同じリーグで見れることは幸せ以外のなにものでもありません。
どちらが最終的に受賞するにしても、おそらく二度となかろうハイレベルな接戦を、野球ファンとして吟味しながら楽しみましょう。