6月18日にオリックスの山本由伸投手がノーヒットノーランを達成し、今シーズンで早くも4人目となるなど、ピッチャーの活躍が目立ちます。それらの偉業を支えるのがバッテリーを組むキャッチャーですが、元審判の佐々木昌信氏に印象に残るスゴいキャッチャーについて、そして現在パ・リーグの最下位となっているが、プロ野球を盛り上げている日本ハム・新庄剛志監督の現役時代のエピソードを教えてもらいました。
※本記事は、佐々木昌信:著『プロ野球 元審判は知っている』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
世界一のキャッチャー・谷繁元信
2004年アテネ五輪、06年WBC。日本野球は海外の審判から、けちょんけちょんに言われました。特にキャッチャーのマナーの悪さ「ミットを動かす」「まだ球審が判定してないのに立ち上がる」などの声が多かったと思います。
そんななかで、“世界一のキャッチャー”は横浜、中日に在籍した谷繁元信捕手だと思います。谷繁捕手には「ミットが流れてストライクがボールとジャッジされないように、ちゃんと止める。逆にボール球をストライクゾーンに入れない」というポリシーがあるようです。
かつてはキャッチング、最近はフレーミングと表現するらしいですが、とにかく、来た球を素直にきっちり捕る天才です。ごまかすことは一切ない。
「佐々木さん、いまのはちょっと甘い。忘れておきますから(次は修正してください)」
そう正直に言う唯一のキャッチャーでした。
ちなみに球審としての考え方は二通りあって、ひとつは最初に際どい球をストライクと言ってしまったので、その試合はストライクで押し通す。もうひとつは、ボールをストライクと言ってしまったが、それだけにして修正する、というものです。先輩からの教えとしては、「間違いは1球で止めておけ」でした。
谷繁捕手と近いところにいたのがソフトバンク、阪神に在籍した城島健司捕手です。
「あれ、ちょっと甘かったかな……」
「佐々木さん、気のせいです。そのぐらいストライクに取らないと、ピッチャー死んじゃいますから」
この2人に関しては、いい意味で信用していました。谷繁捕手や城島捕手は、体は大きいが、低く構えてボールを捕った位置を、ちゃんと見せてくれるのです。
外野のポジショニングといえば新庄剛志
新庄剛志選手は、ゴールデングラブ賞を阪神で7度、2001年から03年までメジャーでプレーしたあと、日本ハムで3度受賞しています。
新庄選手は阪神時代から、とんでもない場所を守っていました。
「審判さん、邪魔です」って、よく甲子園で言われました。私とバッターがかぶっちゃうんですね。
新庄選手はセンターのポジションから、キャッチャーのサインとバッターが見える。ピッチャーの勝負球も頭に入れているので、それに応じて、最初からポジショニングを考えていました。頭がいい選手だなと感じました。
新庄選手は90年阪神のドラフト5位、元木大介選手は90年ダイエーのドラフト1位(拒否して91年巨人入団)。ポジションは外野と内野で違っても、“クセ者”のイメージで両者が重複します。
新庄選手は、とにかく観客を魅了することを常に考えていました。2021年11月の日本ハム監督就任会見は、それを彷彿させます。本人が言っていました。
「ただ捕るだけじゃ面白くないでしょ。やっぱプロなんだからショー的要素がないと」
だから、イージーフライをジャンプして捕ってファインプレーに見せる。
さらに、ランナーをホームでアウトにするバックホームが「外野守備の醍醐味」と考えていたようです。だから打球へのチャージをわざと遅くして、二塁ランナーに三塁を回らせ、本塁で刺す。
2005年のゴールデングラブの表彰式では「イメージで選んでほしくない。今年の自分が選ばれるのはおかしい」と本音を吐露しました。守備に関しては相当の自信とプライドがあったからこその発言なんでしょうね。
2006年日本シリーズの日本ハムー中日戦では、レフト・森本稀哲(ひちょり)選手からセンター・新庄選手、ライト・稲葉篤紀選手のボール回し。強肩、好コントロール。同一チーム3人ともゴールデングラブ賞。見ごたえがありました。