10月15日(土)と16日(日)に京都市内の各所で行われていた「京都国際映画祭2022」。今年で9回目の開催となる同映画祭は「映画もアートもその他も全部」をキーワードに、今年も「映画」「アート」「イベント」の3つのカテゴリから、リアルとオンラインのハイブリッドで行われていた。同映画祭のプログラムのひとつとして、15日にヒューリックホール京都で「小説家中村文則原作映画特集」が行われた。

同特集では、2005年に芥川龍之介賞を受賞し、その後も国内外で高い評価を得ている小説家・中村文則原作の映画全6作品を上映。デビュー作である『銃』の上映後、原作者の中村文則と親交の深い又吉直樹、プロデューサーの奥山和由氏、武正晴監督が舞台挨拶に登壇。中村はリモートで登場した。

又吉「20代のときに取り憑かれたように読んだ」

『銃』は、一人の大学生が、河原でたまたま銃を拾ったことがキッカケで銃に支配され、徐々に狂気が満ちていく様子を描いた物語。

原作に惚れ込んだ奥山プロデューサーによる企画・製作で、武監督がメガホンを取り映画化。難役の主人公・トオルを村上虹郎が熱演、ヒロインの女子大生、ヨシカワユウコを広瀬アリス、そして、トオルを追いつめる刑事にはリリー・フランキーなど、個性派俳優の面々が脇を固めている。

また、この作品は、フィルム・ノワールの映像表現によって人間を追及していく純文学性を持った質の高い作品として描かれていて、トオルの世界が白黒とカラーの世界で表現されている。

舞台挨拶で「原作を20代のときに取り憑かれたように読んでしまった」と語る又吉は、その理由として「20代の頃から警察に追われる夢をよく見るんです」と話し、会場から笑いが起きた。その夢が、映画でトオルが刑事に追われるシーンと重なると語り「その怖さが映像でもリアルに描かれている」と魅力を語った。

「自分の思うような作品がつくれなくて、精神安定剤のように『銃』の文庫本をいつもポケットに入れていた」と、この作品に対する想いを語った奥山。「書き出しの一文で引き込まれた。映画人として絵がパーっと浮かんできた」と言うと、監督の武も「小説のなかにもありましたが、『人を殺してしまうと世界が変わってしまう』という一文を、映像としてどうやって表現するかというのが魅力的でした」と振り返った。

さらに撮影の裏話として、「撮影で使ったアパートに、村上虹郎が撮影前から実際に住み込んでいた」と語ると、会場からは驚きの声が。役作りへの執念を感じさせるエピソードだった。

▲「小説家中村文則原作映画特集」で上映された『銃』

リモートで会場のコメントを聞いていた中村は「伝説的なプロデューサーの奥山さんから話をいただいて、すごくうれしかった」と笑顔。とくに印象的だったのは「ラストシーン」と明かし、「いち観客として見ても、伝説的なシーン。村上くんが笑うんですけど、笑うってのは原作にはない。本人に聞くと、無意識に笑ったみたい。演技に集中していて、笑ったことを覚えていないそうです。原作者から見てもゾーッとしました」と明かした。

さらに又吉に対して、自分の小説が映像化されることについて「又吉くんは脚本に意見を言ったりする? 僕は遠慮しながら書き込むんですが」と質問。又吉は「全然言わないです。原作で死なない人が死ぬくらいの変更があったら教えてください、って感じです」と語り、中村が爆笑する一幕もあった。