関西流の打ち上げは1軒目からキャバクラ

大阪に営業に行ったときの話だ。この日、長渕剛の歌マネの英二さんと、松山千春さんのモノマネをするタレントさんと俺の3人で向かったのは、企業の貸し切りパーティーだった。大阪に泊まりがけの営業で、3人で1ステージだった。

英二さんの知り合いがやっている会社の忘年会だったようで、客の反応も良く、久しぶりに満足のいくステージになった。

忘年会が終わると、そこの社長さんたちから声をかけられ、食事に行くことになったのだが、驚いたのは1軒目からキャバクラに足を向けたことだ。たいてい食事をしたあとに、満を持してという感じで行くことが多かったので、それに面食らった。

1軒目のキャバクラを出ると、社長たちはセクシーキャバクラの入り口に吸い込まれていった。さすが、稼いでいる人はバイタリティーが違う。そして3軒目は、ポールダンス付きのストリップ。この頃になると、セクシーな女性の色香を全身に浴びすぎて、身体中を血流が巡っていた。いや、はっきり言おう。俺はモンモンとしていた。

さて、楽しい時間も終わり、そろそろ解散という流れになり、社長にお礼を言って頭を下げると、信じられないことを社長がいった。

「ホテルにスペシャルマッサージが得意な女性を待たせてあるよ」

半信半疑でホテルに戻ると、3人のきれいな女性が本当にフロントで待っていた。この女性たちが得意なスペシャルマッサージとは、いったいどんなものなんだろう……。そんな期待に胸とそれ以外を膨らませていると、英二さんが切り出した。

「俺たち、そんな悪い人間じゃないからさ、部屋に行ってみんなで飲もうや」

その瞬間、俺はある映画を思い出していた。長渕剛さん主演のとんぼの続編『英二』そのままじゃないか。

映画では長渕さん演じる主人公が、接待と称してホテルに女性を用意されるのだが、女性が服を脱ぎ始めると「俺はそんな悪い人間じゃねー。服を着ろ」と言い、その女性が本気で主人公に惚れるというストーリーだった。

英二さんは、その1シーンのマネをし始めたのだ。長渕さんに心酔してモノマネを始め、映画から芸名を取った英二さんらしい振る舞いだったけど、「おい、ちょっと待て!」というセリフが喉まで出かかった。モンモンとした状態で、女性のスペシャルマッサージを心待ちにしているこの状況で、映画のマネごとして女性を帰す気じゃないだろうな。

気が気じゃない俺をよそに、部屋でお酒を飲み始めると、女性たちも心を許したのか、和気あいあいとした雰囲気になる。英二さんはギターを片手に歌を歌い始め、女性たちも楽しそうに歌を聴いている。心なしか英二さんを見つめる目が潤んでいるように見える。英二さんは歌を歌い終わると、俺たちに向かって静かにこう言った。

「そろそろ時間も時間だ、男性陣はじゃんけんしようか。最初はグーで」

映画の主人公になりきれなかった英二さんは、どんな顔でマッサージを受けているんだろう。マッサージを受けながら、そんなことを思った。