「部下と打ち解けられない、もしかしたら嫌われているのかも?」いいえ。部下たちは決して、あなたという人間を根本から嫌っているわけではありません。ただ、あなたの思い浮かべる、あなたが憧れとしてきた「いい上司」が今の若者とは違うというだけ。部下と楽しく仕事をするために、まずはミレニアル世代が求める「理想の上司像」を知ることから始めよう。

※本記事は、原田曜平:著『若者わからん!』(ワニブックス:刊)より、一部を抜粋編集したものです。

目指せ、ぐでたま上司

数年前に複数の企業の新入社員を対象に「理想とする上司」のアンケートをとった。

様々な意見が出たが、一言でまとめると、今の新入社員が求めている上司は「かわいい上司」だった。前述した「優しい上司」と近い結果だと思うが、要は自分のことを理解してくれる「優しさ」を持っているのと同時に、部下が何だかきゅんとしてしまう「かわいらしさ」を併せ持っている上司が今は若者から求められているようだ。

今の若者は単に偉い地位にいるからといって、上司を無条件に崇める年功序列的な感覚を根本的に持っていない。一方、仕事ができれば何をしても良いといったガツガツした能力主義的な感覚も少ないチルな若者たちになっているので、仕事ができても人間的に冷たい先輩には憧れない。

だから、もし若手に残業を頼むなら、「本当にごめん! 急に仕事が入っちゃったからこれ手伝ってくれないかな。俺も一緒にやるから!」という「横から目線」で、対等に近い姿勢で頼んだほうが、「しょうがないな」と思ってもらいやすい。

本来、上司なのだから「上から目線」が当たり前なのだが、今はこれが通じ難くなってきているということだ。

▲目線を合わせて話してくれる上司がいい イメージ:kouta / PIXTA

ある企業の新入社員が、上司から上から目線で「お前」と言われてすぐに会社を辞めた、という情報がネット上でバズっていた。結局はガセネタだったようだが、今後は本当にありそうな話かもしれない。

ちなみに、アンケートの中の具体的に理想の上司像を書く箇所に「よく鼻血を出す先輩が好き」という珍回答があった。

昔の感覚でいったら、鼻血をよく出す人は正直頼りなくて、「ダメな先輩」と後輩から判断されてしまっていたと思うが、ミレニアル世代にとっては、頼りがいがあっても上から目線の先輩より、頼りがいはないけどかわいい先輩のほうが良い、ということだ。

彼らが「上から目線」とは真逆の「共感」、「対等感」、「親近感」、「お友達感」を上司や先輩に求めていることがよくわかる事例だろう。

他にも「よく恋愛相談をしてくる先輩が好き」などという回答もあった。昭和の感覚で言えば、先輩は後輩の相談を受ける立場であって、まして先輩が後輩に恋愛相談することなどあまりなかったのではないか。しかし今はむしろ、恋愛相談を自分にして来てくれるくらい距離の近い先輩が求められるようになってきているのだ。

上から目線で頼りがいのある役を演じることが多かった石原裕次郎や松田優作が、今の時代にあのままのキャラクターでいたら、おそらくスターにはなっていなかったのではないだろうか。まるでハリウッド映画の大作アクションを見ているような距離の遠さをミレニアル世代から感じられていたかもしれない。

今の上司や先輩たちは無理して頼りがいのある先輩になろうと頑張る必要はない。むしろ自然体で見栄をはらず、正直でいたほうが彼らは接しやすいと思う。

ミレニアル世代は基本的に、まったり、のんびりした「ぐでたま」のような脱力系のタイプが増えている。

彼らに合わせて上司や先輩も「ぐでたま上司」を演じてみるのもいいかもしれない。

わざわざ鼻血を出す必要まではないが、後輩に恋愛相談したり、仕事でトラブルを抱えたら「いやー、マジで困ったぁ。どうしようこれ?」と人間臭く悩んでみたり、部下との距離の近さやお友達感を演出し、ミレニアル社員の共感を勝ち取る努力をしたほうがいいかもしれない。

若者と雑談で盛り上がる方法

▲若い社員とする話ってなんだろう? イメージ:Luce / PIXTA

「若い社員ともっと会話をしたいけど、どういう話題が受けるのかわからない」という相談もよく受ける。

これもやはり、ミレニアル世代の思考の動線に乗ることが重要だ。

今の若者が恋愛離れしているとはいえ、いつの時代の若者にとっても恋愛ネタは男女ともに鉄板。相手の恋愛事情を根掘り葉ほり聞くのはセクハラ認定されるおそれがあるが、先ほどの例のように、上司の恋愛相談を部下にするなら問題ないし、距離感も縮まるだろう。

あるいは自分の昔の恋愛の話をしつつ、今の若者の一般的な恋愛について聞くのであれば、若者たちも答えやすいのではないか。

恋愛相談もそうだが、自分の威厳を保つためにはあまりプライベートなことや、自分の失敗談を語るのは良くない、かっこ悪いと考える昭和的発想の上司もいまだに多いかもしれない。しかし今の若者が「憧れ」よりも「共感」、「畏怖」よりも「親近感」を重視するように大きく変わってきているので、現代の上司や先輩は自分の「プライドの壁」を意識的に取り払う勇気が必要になっているのかもしれない。

私もここ数年、学生と話す時には、意図的に自分の子供の話をするようにしている。

今の若者は両親と仲がいい子が多いので「子育ては大変だけど可愛くてたまらない」とか「将来、どんな子に育つのか楽しみだけどちょっと不安」といった話をすると食いつきが抜群にいいからだ。子供の相談であれば、彼らも子供目線という自分の経験値で話すことができる。

正直、育児で悩んでいるわけでもないし、ことさらにプライベートな話をしたいわけでもない。純粋なテクニックとして、こうしたテーマを自然と選ぶようになってきている自分に最近はたと気づいた。若者が共感してくれる話題を自分で何パターン用意できるかということも、上司に必要なスキルになっているのだろう。

念押ししておくと、共通の話題が見つかったとしても、それを同じ目線で話すことが重要。最後に説教や武勇伝につなげるといった、部下をマウンティングして話を終えるおじさんほど見ていて寒いものはない。ミレニアル世代はお酒もあまり飲まなくなっているので、「男同士は飲めばわかり合える」という幻想も早く捨てたほうがいい。

▲お酒の力に任せるのも時代遅れ イメージ:EKAKI / PIXTA