近所のラーメン二郎に行くたびに、気になる絵があった。その店の二郎が油絵となり、飾られている。「絵」と「ラーメン二郎」。どちらにも愛がないと、この絵は描けないだろうなと思わせる魅力があった。

ネットで調べると、この絵の作者は新チトセという女性で、このラーメンの絵画は「油絵」ではなく「脂絵」というらしい。そしてラーメン画家を名乗っているらしい。しかも、ミスiD2022で「ある視点賞」を受賞しているという。いろいろと気になる彼女にインタビューした。

▲ラーメン二郎西台駅前店の脂絵

ラーメン二郎相模大野店との出会い

ラーメンの絵を描く「脂絵」を作成する謎の美女・新チトセ。幼少期はどんな子どもだったのか。

「出身は関西です。別に隠しているわけではないんですが、ざっくり関西とさせてください(笑)。物心ついたときからずっと絵は描いてました。すごくうまい、という自覚はなかったんですけど、とにかく絵を描くことが好きでしたね」

その頃から周りの女の子とは好みが少し変わっていたそう。

「周りはプリキュアとかに夢中、私はそっちには見向きもしないで、ポケモンが大好きでしたね。男の子っぽいものが好きで、あとは猫と犬を飼っていたので、動物も大好きでした」

動物や、男の子が好きそうなものに興味を持ちつつ、ずっと彼女の中にあったのは、絵を描くことだった。

「ずっとアニメの絵ばかり描いてました、初音ミクが大好きで、漫画とかも描いてましたね。高校のときに美術部に入ったんです。そして、初めて油絵を描いたら親が“めっちゃええやん!”って褒めてくれたんです。あまり褒めない親なんですけど、“アニメの絵は下手やけど、こっちはええやん!”って、私が描いた油絵をすっごく褒めてくれて(笑)、そこから、絵を頑張ろうと思ったんです」

「美術以外にやりたいことがなかったんです」と語る新チトセ。その思いを親に伝えると、親からは「ひとつ約束してほしい」と言われたそう。

「美術をするなら、きちんとそれでご飯を食べられるようになってほしいってことですね。美大の絵に関する学科を出た方って、講師になるか、アーティストになるか、どっちかしかないんですよね。アーティストはなかなか食べていけないので」

その後、大学に進学する新チトセ。

「母子家庭でお金が厳しかったので、地元から離れた国公立の大学に入ったんですけど、そこは寮生活だったんです。あまり悪く言いたくないんですが、その地域の空気が閉鎖的で合わなくて……休みのたびに都会に遊びに行ってました。で、ずっと悩んでたんですけど、3年生のときに編入制度があって、関東の大学に編入することができたんです」

それまで抑圧されていたのが嘘みたいに、関東でのキャンパスライフは楽しかった。

「閉鎖的な地域での月5000円の寮生活から、関東でひとり暮らしはじめたから、すごく楽しくて。授業も楽しいし、同級生にも恵まれました。入ってすぐに“1年生からずっとこの学校にいたみたいだね”って言ってもらえてうれしかった…!」

▲新チトセ

新チトセを構成する、アーティストの部分をこれまで聞いてきたが、もう一方、彼女の構成する大きな要素、ラーメンに関してはどういう出会いだったのか。

「ファーストインパクトは、小さい頃に出会った“ずんどう屋”というラーメン屋ですね。今は東京にもニューヨークにもある一大チェーン店なんですが、基本は関西を中心に展開している豚骨ラーメンのお店で、私が惹かれたのはニンニクなんです。生ニンニクをブシュッと潰して食べるんですけど、もう衝撃で。ニンニクうまっ!って(笑)」

ただ、そこまでは普通のラーメン好きでしたね、と新チトセは笑う。

「通っている学校の近くに、ラーメン二郎相模大野店があったんですけど、ひと口食べて、もうそこから沼ですね(笑)」

「二郎は10軒ほど行ったことありますけど、相模大野は食べたことないんです」と明かすと、「え! 相模大野の二郎に行ったことないんですか? ぜひ行ってみてください!」と目を輝かせた。

「相模大野の二郎はお茶漬け~麺っていうのがあって、つけ麺の麺にふりかけがかかってて、さっぱりしててめちゃめちゃ美味しいんです」

今でこそ “二郎系”と呼ばれるインスパイア店の出現から、市民権を得た感のあるラーメン二郎であるが、ひと昔前はまだ全国的な認知はされておらず、女性のお客さんもまばらだったように思う。

「たぶん、女性で全店舗制覇してる方って、あまりいらっしゃらない気がします。敬愛するAV女優の桃乃木かなさん、私はもう好きすぎて“桃ちゃん”って呼んでるんですけど(笑)。桃ちゃんくらい…?……すみません、ボケました(笑)。正直、こんな私でも悪目立ちするのか、売名行為だ、みたいに叩かれたりするんですよ。“本当に好きなのに!”“売名でこんなに全国各地に行って並ばないよ!”って思ってます」

自他ともに認めるジロリアンである新チトセ。そんな彼女にラーメン二郎の魅力について聞いてみた。

「これは聞かれたら絶対に答えていることなんですけど、“自分なりに変化を感じて、ブレを楽しめるところ”です。ブレというのは、味のブレです。もちろん、自分の好みにとって良いブレもあれば、悪いブレもある。ただ、悪いブレを知っているからこそ、良いブレだと感じることができるわけです。ラーメン二郎全店舗で味が違うし、日によっても味が違う。そこがすごく魅力だなと思います」