同棲一年、見える世界が変わった

事務所移籍後も急激に仕事は増えることはなかったから、相変わらずバイト、ライブ、ショーパブの繰り返しの毎日が続いた。お台場にあるスーパー銭湯のバイトのほかに、ダブルネームのジョーから紹介してもらったイベント大道具のバイトも掛け持ちで始めた。真面目に働くからか重宝されて、バイトだけがどんどん増えていく。

バイトや仕事が終わって疲労困憊で家に帰ると、彼女が温かい食事を用意して待ってくれるのはうれしかった。しばらくして彼女のご両親に挨拶に行ったし、うちの母親や妹にも紹介した。皆とても喜んでくれたし、一緒に暮らすのは楽しかった。

だが、結婚となると、踏ん切りがつかない。

ある日のこと。仕事が終わり、酒をたらふく飲んだ俺は、営業先でもらった花を玄関に置いて、風呂も入らずそのまま眠りこけてしまったようだ。翌朝、父親の遺影の横に、きれいに花瓶にいけた花が飾ってあった。水を吸って元気になった花が、とても美しく見えた。

一緒に暮らし始めて一年が経とうとしていた。

まだ決断できないのか?

2016年の大晦日。俺は41歳になっていた。

「たまには外でメシでも食おうよ」

彼女をお台場に呼び出した俺は、いつも通りスーパー銭湯のバイトを終えると、風呂に入ってから彼女の待つショッピングモールのレストランに向かった。

食事と夜景、金のない二人のささやかな贅沢。時計を見ると21時を回っていた。この日も彼女はよく笑ってくれた。彼女の顔を見ると胸が少し傷む。ずるずるとした関係のまま今年が終わってしまうのか――。