ずっと見てくれていたのは誰か
彼女と一緒に窓の外の夜景を眺める。大晦日のお台場は人も少なく、イルミネーションがとてもきれいだった。別に死ぬ前でもないのに、これまでの思い出が走馬灯のように蘇る。
どこかの社長「相変わらず面白くねーな」
彼女「TAIGAさんが一番面白かった!」
飲み屋の客「売れるわけないだろ。頭から酒でもかぶってろ」
彼女「絶対に売れると思う。面白いもん!」
S子「売れへんやろ。オモロないもん。こんなダメな男と結婚してくれる女性いるわけないやん!」
彼女「そんな人たちにTAIGAさんの面白さがわかるわけない! 私、悔しい!」
「あぁ、何やってんだ俺」
思わず大きな声が出た。そして頭を抱えた。
ずっと笑ってくれてた子が目の前にいる。ずっと信じてくれてた子が俺にはいる。不安? バカじゃねーの俺、おい! 今年が終わるぞ! 年が明けたらまたグズグズするぞ! これだけ思ってくれる子を幸せにできねーなんて、ダセーな俺!
時計を見る。21時30分。今しかない。
「お腹が痛いからトイレに行ってくる」
そう言ってレストランを飛び出した俺はひたすら走った。ショッピングモールのなかにアクセサリーショップはないかと探した。そして閉店間際のショップを見つけた。
「今からプロポーズしたいんですけど婚約指輪ありますか!?」
「サイズは?」
「わからないです!」
「普通は9号くらいかなと」
「じゃあそれで!!」
指輪は8000円だった。値段に文句を言うような子ではないが、俺の精一杯の気持ちだとわかってほしかった。
ふたたび走ってレストランまで戻る。汗だくの俺を見た彼女は、よっぽどお腹の具合が悪いのだろうと心配したようだ。
「そろそろ出ようか。お台場の海を見てから帰ろう」
俺のお腹を心配する彼女と一緒にお台場の海岸を散歩した。そして、ふたたびトイレにこもり、買ったばかりの8000円の婚約指輪を取り出して、浜辺で海を眺める彼女に近づく。
「ずいぶん時間がかかっちゃってごめんね。俺と結婚しよう。一緒に幸せになろう」
少しタイムラグがあった。ちっぽけな指輪をじっと見つめて、彼女は静かに涙を流した。
「私でいいならお願いします」
突然のプロポーズだった。この子を幸せにするために絶対に売れてやる。彼女の肩を抱き寄せながら、そう強く心に誓った。
(構成:キンマサタカ)