不妊治療もしなかった中年夫婦が奇跡的に受胎。無事に出産を乗り越えても難題ばかり? 56歳の夫は定年目前で給料は減る一方、妻は働きたくても保育園が見つからず……。〈保育園落ちた日本死ね!!!〉を自分事に感じたシニア子育て奮闘記。

※本記事は、中本裕己:著『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました -生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

保育園制度の矛盾についての怒り

息子が退院して子育てが始まると、これからの生活設計を立て直さなくてはと、ようやく考えるようになった。

私は会社員なので、60歳の定年がある。

65歳まで雇用延長の制度があり、今の社会情勢だと70歳まで首がつながる可能性はあるが、給料が激減するのは目に見えている。その先に年金支給もあるが、働けるうちは少しでも貯めるために、どげんかせんといかんのである。

一方の妻は、出産前まで都内の2つの専門学校で週4回程度、映像の授業を持ってきた。

9月に出産予定だったので、半年から1年程度は仕事を離れて育児に専念するつもりだったが、7月からの緊急入院で産休が前倒しされる形となった。

退院してからも、子育てに加えて、筋力の低下がなかなか戻らないこともあり、家事に復帰するまで半年ほどかかっている。それでも元の勤め先から声をかけていただき、出産後丸1年経った2021年10月から職場復帰しようという計画だった。

ところが、ここに大きく立ちふさがった壁があった。世の中の多くのパパママを悩ませ続けている保育園問題だ。

▲保育園制度の矛盾についての怒り イメージ:タカス / PIXTA

保育園制度の矛盾について、妻が怒りをぶつける。

「産休・育休が明けて、いざ仕事をしようとなると、いろいろ方法はあるけど、子どもを保育園に預けて働きに出るのが一番現実的で安心できるでしょう。そのとき、保育園の入園が先に決まっていないと、仕事の契約書に安心してサインができないわけよ。

ところが、保育園に入園できる条件の1つとして、“働き口が決まっている”ことが求められるの。仕事の採用と保育園の入園が、同時に決まることはまずないので、どちらかを先に決めなくてはいけないんだけど、なんなのこの矛盾は!って思うの。

特に私のようなフリーランスは、採用が決まっていながら『保育園が見つからなかったので、次の機会にお願いします』と仕事をお断りしたら、“次の機会”がないかもしれないでしょ。その不安があなたわかる? もちろん会社員の友達だって、会社の理解が得られなくて、育休が延長できずに辞めてしまう子もいるのよ」

妻の怒りはもっともだ。結果的に全国の多くの母親は、少なからず“ウソ”をついて、「保育園が(たぶん)決まりました」とフライング気味に報告をして職場を確保したうえで、保育園がどうしても見つからない場合は、ベビーシッターなど次善の策を考えることになる。ベビーシッターを常時お願いするとなると金銭的負担は大きく、働いて稼いだ分をそのまま全額回すようなことにもなりかねない。

こうした事情はとっくに問題になっている。2016年、はてなブログの匿名ダイアリーに投稿された〈保育園落ちた日本死ね!!!〉と題する次の内容が物議をかもしたことを覚えている方も多いだろう。

当時の衝撃的な投稿を引用する。

〈何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ。どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに日本は何が不満なんだ? 何が少子化だよクソ。〉

このニュースに接した当時は、まず第一に「言葉遣いが悪いなあ」という印象が先行したが、今となっては言葉が荒れる気持ちがわからなくもない。その後、どこまで状況が改善したかと言えば、根本はあまり変わっていない。

「待機児童ゼロ」を目指して、それを実現している自治体も増えてきてはいるが、実際に保育園を探した経験から言えば「仕事と保育園を同時に決めなければならない」というシステム自体が矛盾している以上、特に都心で働く育児家庭にとって、かなり厳しい状況であることに変わりはない。

というような不満はいったん保留して、とにかく我が家としてできる限りの行動に出た。