一番最初になくなる仕事
2020年が始まった。その頃の俺はといえば、賞レースで結果を残せなかったものの、R-1ファイナリストという称号のおかげで、各地の営業に呼ばれるようになっていた。月に数本営業があればなんとか暮らしていくことはできたし、これから東京オリンピックもあるから、日本中が盛り上がりイベントも増えるといいな、なんて明るい未来を描いていた。
そんなときにやってきたのが、コロナ禍だった。
海の向こうで「未知のウイルス」が猛威を振るっている、というニュースが連日流れていたが、もちろん最初は他人事だ。
だが、状況はどんどん悪くなっていく。2月にはほとんどの営業がキャンセルになり、ライブやショーパブの仕事もキャンセルが増えた。3月にはついに芸人の仕事が0になった。ということは、収入は0になる。世間はコロナ一色で、誰も俺たちの生活なんて気にかけてくれない。芸人というのは戦争や疫病が起こったとき、一番最初になくなる仕事なんだと改めて思った。
アルバイトでやっていたイベント大道具の仕事もなくなった。とりあえず手軽に稼げるという噂を聞いて、ウーバーイーツのアルバイトに登録することにしたが、新調したママチャリにまさか3年も乗ることになることになるとは、このときは思ってもいなかった。
緊急事態宣言。これまで誰も聞いたことがないであろう宣言が発令され、街から人が消えた。ショーパブのあった歌舞伎町はゴーストタウンと化した。
「家にいろ」
「外へ出るな」
「マスクをしろ」
こんな事態が起こるなんて想像もつかなかったし、それまで当たり前のように会ってた人たちと全く会わなくなった。大勢でワイワイやるのが好きな俺としては、苦痛でたまらない毎日だ。
飲み会ができない、花見ができない、バーベキューもできない。仕事がないから、毎日のようにウーバーイーツの配達をするしかない。
その一方で、ぺこぱは昨年末のM-1以降、仕事はどんどん増え、連日テレビで見るようになっていた。
「いいぞいいぞ! 頑張ってるな!」
ぺこぱの人気は、コロナに負けないくらいウナギのぼりだった。夏にぺこぱと営業に行ったが、その人気はすごかった。ステージに登場しただけで「キャー!」と歓声がわく。
売れて変わるのは本人ではなく周りだというが、たしかにスタッフや芸人が気を使っているのがわかった。