30代後半、売れない芸人の壁

サンミュージックに移籍したあとも、大勢でワイワイやるのが好きだった俺は、芸人仲間を集めて100人花見大会などを企画したり、バーベキューを定期的に開催していた。オスカーの頃より年齢もいって丸くなってたからか、後輩たちも俺にビビらず集まってくれた。

集まりがあるときは、オスカー時代からかわいがっていた ぺこぱの2人も誘った。当時はネタはイマイチだったが、人(にん)が面白い2人だと思っていた。事務所が違っても付き合いは変わらずあったし、3人でもよく飲んだ。歳は離れているが、単純に一緒にいて楽しかった。

いつものように居酒屋で ぺこぱの2人と飲んでいたときのことだ。その日の松井(現在は松陰寺)は、ずっと表情がさえないことが気になっていた。やっとのことで決まった深夜番組のレギュラーが終わり、チャンスを掴み損ねた頃だ。

▲お笑い談義に花を咲かせたあの頃

シュウペイはまだ若かったが、松井は30代後半にさしかかるとこだった。俺はすぐにピンときた。

おそらく今後のことで悩んでいるのだろう。「芸人を辞めようか迷っています」と言ってきたことはなかったが、長い付き合いだ。俺も30代後半は芸人を辞めようか一番迷っていたときだったから、痛いほどその気持ちはわかる。

表情、声のトーンなど、何かを言いたそうにしているのがわかる。売れない現状と40歳前というリアルな年齢、その両方を考えたら、辞めることを真剣に考えていても不思議でなはい。

何かを言おうと口を開きかけた松井を遮るようにシュウペイに話を振る。

「シュウペイはピン芸人になっても、新しい相方と組んでも、芸人続けそうなタイプだよな」

するとシュウペイは、

「僕は相方に誘ってもらってこの世界にきたので、相方以外と組んでお笑いを続ける気はないです」

キッパリそう言い切った。ということは松井が辞める決断をしたらシュウペイも自動的に辞めることになる。松井は再び口を閉ざしたまま、じっと下を見ていた。