チャンスの神様を微笑ませる方法
ぺこぱがサンミュージック移籍してきて数ヶ月。事務所ライブでも漫才のウケはよく、すぐに上のクラスのライブに昇格した。一般的に、事務所ライブには自分のランクによって出演できるライブが決まっていて、勝ち抜くことで上のクラスに所属できる。そうすれば事務所も力を入れてくれて、テレビなどに出るチャンスも増える。当然、芸人たちは事務所ライブに力を入れる。
そんな芸人たちがしのぎを削る事務所ライブでも、新参者だったはずのぺこぱは、あっという間に人気を獲得していった。
そして2019年、再びM-1グランプリの予選が始まる。1回戦から順調に勝ち上がったぺこぱは、昨年跳ね返された準々決勝の壁も超えた。松井とシュウペイのこれまでの努力を知っていた俺は、自分の賞レースでもないのに結果が気になってしょうがなかった。
子供の出産のときと一緒で、俺は祈ることしかできない。準決勝の日も祈っていた。出番終わりに松井に連絡すると、すぐに返事があった。
「かなりウケました。けど、周りもメッチャウケてたからどうですかね」
数日後。仕事の合間に松井からのLINEに気づく。
「M-1決勝決まりました!」
俺の祈りが少しは役に立ったのだろうか。
「おめでとう! 新宿の居酒屋、押さえとくから終わったら来い! お祝いだ!」
ぺこぱの決勝までしばらく時間があったが、俺はずっと気になっていることがあった。それは自分のR-1ぐらんぷり決勝のときのことだ。
自分のネタに自信があったから俺は、このネタでダメなら本望だと思っていた。
「トップでもトリでもなんでも来い!」
強がることが男らしさだと思っていたのかもしれない。本番の順番なんてどうでもいいと吹聴していた。場の空気が温まってないトップは、賞レースでは不利とされていたのはもちろん知っていたが、俺だったらそんなジンクスをぶち壊してやると虚勢を張った。
だが、いざ決勝が決まると、そんな虚勢はどこへやら。
「出番はトップはイヤだな〜」
「あの芸人と同じブロックはイヤだな〜」
「他の芸人ウケるな」
「優勝するような芸風じゃないから、せめて爪痕を残そう」
そんなマイナスなことばかり考えていたんだから笑ってしまう。
俺が決勝で結果を残せなかったのは、この消極的な姿勢にもあったと思っている。そんなヤツにチャンスの神様は微笑まないだろう。そして、R-1の決勝から数年が経った今も、そのことがずっと頭に引っかかっていた。だからこそ、二人にはそんな失敗をしてほしくなかった。