理想のキャリアパスを求め、ベンチャー企業に転職を考える人は多いのではないだろうか。新卒から10年間で8社を渡り歩き、その中でいわゆるITベンチャーも経験した村井庸介氏。とてもやりがいのある業務内容であったが、同時にベンチャー特有の落とし穴に気づいたという。
※本記事は、村井庸介:著『ずらし転職』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
ベンチャーに行くなら“脂の乗った”タイミングで
シンクタンクから求人広告会社に移った後、25歳のときに入社したのが、ソーシャルゲームを扱うベンチャーのIT企業です。
この会社はいわゆる「上場企業」だったのですが、順風満帆というわけではなく、赤字経営が続いていました。私が転職する直前くらいにソーシャルゲームでヒット作を出し、黒字に転換しました。
その会社で、ゲーム開発を行う事業部のなかの経営企画という立ち位置で、事業部長の参謀として予算の策定や、事業部の戦略考案、新しい業務の見直しといったことを行っていました。
もともと行っていたコンサルティングと職務の内容が近いことや、一方で外部のコンサルタントではなく「会社の中の人」として細かい業務依頼を課していく、という仕事内容がおもしろくて、日々がとても楽しく、モチベーション高く仕事に取り組んでいました。
にもかかわらず、この会社を辞めようと思ったきっかけは、ベンチャー企業ではよくある話です。
伸び盛りのベンチャー企業には、他社で実績を残した、まさに“脂の乗ってきた”ような人たちが、事業部長や管理職として、自分よりはるかに高い年収で入社してきます。一方で自分はまだ若く、仕事は負けないくらいやっていると思っても、会社の評価制度的になかなか給与があがらない。
「この人の実力、年収に近づくのにあと何年かかるんだ?」
と考えたら「ベンチャー企業なのに、あと5年……。いや10年はかかるだろう」という結論に至りました。
ステップアップしづらい、どん詰まり感
ベンチャー企業は、どんどん出世していくことができるような印象をもちますが、それが可能なのは先頭を走っている人たちだけです。その後塵を拝する人たちは、上司が他の企業より若いゆえ、なかなかその席は空きません。
これは、意外と気づかない、ベンチャー企業特有の“ポスト問題”です。上司に追いつくのに、あと10年かかるとして、自分は25歳から35歳になりますが、35歳の事業部長は45歳になります。それこそ、さらに脂がのっている時期で円熟の域です。この事業部長が、そのポストを明け渡すことはほぼありません。
「会社の規模をさらに大きくして、新しいポジションをつくろう!」あるいは「上司にさらに出世してもらい、自分のポジションを上げていこう!」という視点が欠けていた当時の自分は、このままこの会社でがんばっていても、先が見えないのではないかと思ってしまいました。
これは途中から入ってくる人からすると、結構つらいことです。
ポジションが上がらないと給与の額も上がらないという会社では、やがて停滞を感じやすくなってしまいます。しかし、そう考えて滞留していてよいのかなと思うところがあり、急にどん詰まり感が出てきたのが当時の私の感覚です。
会社での自分自身の評価自体は悪くなくても、構造的に社員がステップアップしづらい設計になっているというのが見えてしまったので、それなら別の職場に移ろうと思って転職をしました。