もうすぐ新年度が始まるが、人事に関することが話題にあがる時期でもある。同期が先に昇進した、望んでいない異動を言い渡された、などをきっかけに転職を考える人もいるかもしれない。10年間で8社を渡り歩いた村井庸介氏が指摘するのは、転職にあたって重要となるのが自らの「希少性」。わざわざ資格を取得しなくても、今自分が置かれている環境の中で、高めていくこともできるという。

※本記事は、村井庸介:著『ずらし転職』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

上層部とのパイプも太くなる

転職を成功させるカギを握るのが、自分の「希少性」です。

私がITベンチャー企業に在籍していたとき、離職率の激しいカスタマーサポートセンターの採用に関するプロジェクトについて、外部の専門事業者に任せるという大枠だけ決めたまま、誰も手を付けていないという状況がありました。開発や新規事業、新サービスが好きな社員が多く、みんな忙しいこともあり、そちらに手をまわすことができなかったのです。

見かねて、私が「やります」と手を挙げて、そのプロジェクトを進めることになったのですが、それから事業部長と直接話す機会が増えました。

結果として、本当なら人件費を社内であと1000〜2000万円追加しなければいけないところが抑制されて、コストを抑えることができ、事業部内でMVPをいただくことができました。その後、事業部の事業部長だけが集まる経営会議の旗振り役を任され、その後の事業戦略について重要な議論の意思決定を任されることもありました。

このように、人がやらない仕事をやるというのが、希少性を上げるひとつの方法です。上層部からすると、「ちょうど困っていたところを助けてくれた」という感覚になり、その後も話をもちかけられやすくなります。

100人のなかの1人になれるポジションを探す

とにもかくにも、比較されないポジションづくりが大切です。価格が決まる構造として、希少性が高いものには、それに見合った価格が支払われます。

どこでも飲めるビールはどんなにがんばっても1万円を超えることはありませんが、30年寝かせたワインは数が限られ希少性が高いので、1杯1万円でも納得して払ってしまいます。希少性と価格は連動するのです。

人と同じに見える単一的なキャリアは横比較されやすく、「経理だったらこの相場」という判断がされやすいです。しかし、「経理×ITツール×事業側のマーケティングの経験」というふうに複数の要素が掛けあわされると、横比較できるマーケットが少ないか、そもそも存在しないため、「価値がある」と認められるとある程度自分の希望年収を伝えても承認されやすくなります。

自分の希少性を上げることは、自分の希望する年収やキャリアを築くために重要なカギになります。

「10分の1の人材」というとハードルが高いように聞こえますが、これはすべての人材のトップ10%という意味ではありません。

たとえば、「身近にいるマーケティングが強い人」といわれたときに、マーケティング担当者10人のなかで名前を挙げてもらえるくらいのイメージです。

決して簡単ではありませんが、ここに経理を掛けたり、デジタルを掛けたりすると、ハードルはかなり下がります(追加で経理を習得する、という点では日々勉強することのハードルは上がりますが)。

周りを見渡して、穴になっているテーマを見つけ習得すれば、さらにハードルは下がります。「周りの10人のなかで1人」というのは、目標としては立てやすいのではないでしょうか。

加えていえば、他社のマーケティング担当者も10人ずついて、競合企業が10社あれば、100人のなかの10人です。さらに掛け算をすれば、100人のなかの1人になれるのです。そうすれば、他社にさらによい条件で転職することも可能になってきます。

100人のなかの1人になれば、よい条件で転職することも可能 イメージ:PIXTA

現状、WEBやスマートフォンアプリケーションに強い人は、どこでも引く手数多になっています。時代に合わせて、これから触れるべき産業はどこか見極めましょう。

社会的に見たときに人が10分の1しかいない産業や、新しいテーマを取り込んでおくと、少なくとも5年10年は希少性が高くて引く手数多な存在になれます。

時代の動向を把握しておくべきなどといわれますが、やはり、常にこれから起こる新しい産業やソリューションのテーマに触れておくことは大切なのです。