新型コロナウイルスの流行によって高まった巣ごもり需要。そうした社会的背景と相まってYouTubeの視聴環境も大きく変わってきた。仕事や家事をしながらYouTubeで環境音に耳を傾けるという習慣は、ここ数年で大きく増加している。
そうしたトレンドにいち早く着目したのが、小山皐氏が運営しているYouTubeチャンネル「Sound Forest」。音とイラストをテーマにさまざまな環境音動画を投稿し、これまでにチャンネル登録者数は23.4万人を突破している。YouTubeチャンネルを始めたキッカケ、環境音やイラストへのこだわり、今後の展開について小山氏にインタビューした。
チャンネルのコンセプトに影響を与えた田園風景
――そもそも、どのような経緯でチャンネルを開設したのでしょうか?
小山皐(以下、小山) もともとはゲーム会社で働いていたのですが、基本的に自分が作ったゲームに対して直接意見をもらえる機会が少なくてモヤモヤを抱えていました。というのも、僕はずっと自分の成長のためにフィードバックをもらいたかったんです。そんななかで、自分の得意分野でもあったイラストとサウンドに着目して、YouTubeであれば“フィードバックを得られるんじゃないか”と思って始めたのがキッカケですね。
――今でこそ音とイラストに着目したチャンネルは多いですが、それこそ3年前はまだまだ少なかったですよね。こうしたテーマが伸びるという確信は当時からあったのでしょうか?
小山 以前は、ゲーム制作の成果を投稿するチャンネルだったのですが、新型コロナウイルス感染症が流行り始めたタイミングでマーケティングをしてみた結果、環境音動画の需要が高まってくるのではないかと気づいたんです。
当時、何気なくYahoo!ニュースのコメント欄を見ていたら、そこで面白いコメントを見かけたんですよ。たしか「勉強するときに何してますか?」という質問に対して、「携帯ゲーム機のBGMを切って、ゲーム内に流れている環境音サウンドと背景だけ見て勉強してます」というコメントだったと思うんですけど、それに対してかなり好評価がついていて。それを見たときに、ここにビジネスチャンスが転がっているんじゃないかと思って、現在のスタイルに落ち着きました。
――コロナの流行によって、YouTubeそのものの需要が大きく高まりましたよね。手応えを感じたのはどのタイミングでしたか?
小山 一番古い動画(「夏、海の見える、誰もいない部屋で。」)が大きくバズったときですかね。これをキッカケに視聴者さんからのコメントをもらえるようになって、ある程度のフィードバックが得られるようになって、自分のやりたいことができるようになったので、これでいけるんじゃないかなという確信に変わりました。
〇[ASMR/環境音]夏、海の見える、誰もいない部屋で。/作業用BGM 睡眠用BGM
――動画のバリエーションが豊富で驚かされるのですが、そういったコンセプトはどのように決められているのでしょうか?
小山 ひたすらアイデア出しをするようにしています。アイデアっていうと、よく天才が“寝ていたら思い浮かびました”みたいなことを言われますけど、多くの人にとっては毎日疲れるほど考えた結果、ふとした瞬間に浮かび上がってくるものなんです。
例えば、1時間くらい会議中にアイデア出しをしてたけど、全く浮かんでこないこともありますよね。でも、会社を出て電車に乗った瞬間に浮かび上がってくるみたいなことがよくあるんです。そういうのは全部メモして、あとから見返しできるようにしています。アイデアを常に貯蔵しているイメージですね。
――必死になって考えるというよりは、生活のなかで自然と浮かんでくる感じなんですね。
小山 日常的かつ幻想的なものというのは、ありふれているけれど意外と気づかないものなんです。例えば、学生時代に1人で教室に残って空を見ているときって、人がいないのが幸いして入射光が綺麗に見えることがあったと思うんですよ。普通の教室なのに、やけに幻想的に見えるというか。
アイデアというのは、そういった情景をしっかり記録したり、記憶したりとかすることで浮かんでくるものだと思います。そこをなあなあにしてしまうと、中途半端な絵になってしまうんですよ。そういう自分の記憶を大事にするのは心がけていますね。
――Sound Forestさんの動画には、とてつもない郷愁感を感じるんですよね。その辺りも、ご自身が経験された記憶から影響を受けて作ったのでしょうか?
小山 それはあると思います。私の知人のイラストレーターさんとか見ていても、自分たちの幼少期の体験したものに対して、アイデアを思い浮かべることが多い気がします。というよりも、自分が経験したことのないことというのはできないんですよ。私の両親は静岡の御殿場に住んでいたんですけど、最近は近くにアウトレットができた関係で、かなり都市化してしまって。今ではマンションも大量に建てられて、郊外都市みたいな雰囲気すら出ているんです。
なので、小学校の頃に自然の風景を感じたくて、市が運営している「田舎へ行こう」みたいな企画で、新潟県によく出かけて田舎の風景を撮影するということをしていました。それが私にとっての原風景になっていて、Sound Forestのコンセプトにもつながっているんだと思います。