心地よい音と不快な音のバランスを意識しています

――ご自身で環境音を録音されていると思うのですが、そういう環境音はどのように見つけているんですか?

小山 あえて見つけに行くこともありますし、ピクニック行ったときに偶然見つけることもありますし……多種多様ですね。本業があるので隙間時間にやらないといけなかったりするので、常に音に対する感覚を研ぎ澄ましています。

――音に対して敏感になっていると。

小山 そうですね。例えば、東名高速道路を走っていて、静かなときというのはリラックスできるんですけど、渋滞していて車がひしめき合っていたり、クラクションが鳴ったりしているときというのは、ちょっと恐怖を感じてしまう自分がいて。たぶんピアノとかも弾いていた関係で、音に関して敏感なんじゃないかなと思うんですけど。

あと、川といっても、川の水深によって音階が変わってきたりもするので、川のどこで録音するのかによっても、心地良く聞こえる音というのは違うので。だから、常に音に対しては敏感でいるようにしています。

――それは聞いていてわかる気がします。Sound Forestさんの動画に「斜陽の差し込むキッチンで夕飯の支度をする。」があると思うんですけど、お玉の音だったりとか、沸騰する音だったり、包丁をトントンする音だったりっていうのを、心地よいところで収めているのがすごいなと思って聞いているんです。音へのこだわりという部分を聞かせていただけますか?

〇[ASMR/環境音]斜陽の差し込むキッチンで夕飯の支度をする。

小山 キッチン系の話ですと、例えば、炊飯器とかって冷蔵庫の上に置いたり、板の上に置いたりしているので、お互いに共鳴して重低音が鳴ってしまうんですね。その状態で鍋の中でお玉をかき回す音を加えてしまうと、重低音の上に高音が重なってしまって、どうしても聞きづらい不快な音になるんです。常に心地よい音と不快な音のバランスには気をつけています。

――沸騰する音を直火を使ってやるのもこだわりなのでしょうか?

小山 そこは完全にこだわりですね。というのも、IHだと重低音が入ってしまうので確実にダメなんですよ。鍋とIHの境目に水滴が残ったりととかして、それが鍋とIHの隙間で沸騰して、雑音に聞こえてしまうんです。

――なるほど。沸騰音はどのような道具を使っているのでしょうか?

小山 アルコールランプですね。アルコールランプだと、水滴が落ちることもないですし、水も火の元に垂れてこないので、雑音にもならないんです。あとは、鍋とは違って上からマイクを下ろすことができるので、沸騰している感じをリアルに演出できるので、最近だとアルコールランプの上にフラスコを置いて撮る、というのが多いですね。

▲動画『音声の制作/第一弾/沸騰する音/』より

――これまでに苦労した環境音はありますか?

小山 かなりありますね。意外に思われるかもしれないのですが、セミの声って大変なんですよ。セミの声が聞こえる場所に録音しに行くんですけど、基本的に都市部とかにいるセミって単発で鳴くので、どうしても私たちに馴染みのあるセミの音にはならないんです。そうなると、あえてセミたちがいっぱいいるような山を探さなければいけないので難しいんですよ。

――自然音は簡単だと思っていたのですが、違うんですね。

小山 逆に、焚き火のようなものはコントロールできるんです。薪を乾燥させたりだとか、投入する油の量を調整したりすれば、パチパチ音を増やすことができますし、風が吹いていても風防をつけることである程度は解決できるんです。完全に自然にコントロールされてしまうような環境音は難しいですね。