“ロジカル”に行われているヤンキースファンのブーイング

話を戻しますが、ニューヨークのファンが“ロジカル”というお話は、実は敵チームへの対応でもそれなりに見えてきます。基本路線としては「敵チームへの野次やブーイング=敵を精神的に疲弊させることで自チームをサポートする」という前提のもとで全力で行われます。

しかし、この敵チームへの対応は相手によって濃淡がついたりします。わかりやすい例では、2017~18年に電子機器を使用したサイン盗み不正を起こしたヒューストン・アストロズ相手には、宿敵レッドソックス相手以上に猛烈なブーイングと野次が向けられました。

2017年プレイオフにて、ヤンキースがサイン盗み全盛期のアストロズと直接対決をし、接戦で敗北をしてしまったため、多くのファンの心理としては「アストロズが不正をしていなければヤンキースが勝てたのでは」となっています。終わったことはやり直せないが、犯した過ちを忘れさせまい――アストロズにとって居心地の悪い環境をいかに作り出すか、という考えの元で通常の数十倍も気合いが入っていると言えるでしょう。

今やアストロズから他チームへ移籍をした当事者のカルロス・コレア選手(現ミネソタ・ツインズ)やジョージ・スプリンガー選手(現トロント・ブルージェイズ)も痛烈な攻撃から逃げられない一方、当事はアストロズに所属をしていなかったカイル・タッカー選手やヨルダン・アルバレス選手は他チーム並み(?)のブーイングに留まっていたりと、ただただ野蛮そうなファン対応にも意外とロジックが通っています。

なお、2017年の最大級の戦犯と言えるマーウィン・ゴンザレス(現オリックス・バファローズ)が昨年ヤンキースへ加入をした際には、かなり多くのファンに嫌われたまま、わずか1年で退団となりました。

辛口ニューヨーカーも脱帽! 大谷翔平の圧倒的な実力と人格

その一方で、意外と他球団のスターに敬意を表す場面もあったりします。直近で最もわかりやすい例は、やはりあの男――大谷翔平選手です。先日、私はヤンキースタジアムでエンゼルス戦を現地観戦しましたが、大谷翔平選手へのブーイングがほとんどなく、純粋にびっくりしました。

彼がMLBデビューをした当時は「ヤンキースを蹴ってエンゼルス入りを選んだ!」という小学生のような言い分でブーイングを受けていたことがメディアでも取り上げられていましたので、敵であり続ける限りは永遠にブーイングの対象となるものだと勝手に思っていました(シアトル・マリナーズの本拠地でも似たようなことが起きましたが、やはりどこのファンも自チームに来て欲しかったですからね…)。

しかし、今や彼は「味方」「敵」の枠域を超えた“must-see”(絶対に見逃してはならない)という存在へ進化をしています。どんなにワイルドなヤンキースファンでも「大谷は異次元のスーパースター」として認め、彼が打席に立ったときは、ほんの一瞬でも「ホームランを打ってほしい」と思ってしまったりするのではないでしょうか。

実際、先日ヤンキーススタジアムで超高速弾丸ホームランを放った際には、あまりにも当たりが痛烈すぎた衝撃で場内が一瞬静まり返ってしまいました(と現地2階席にいた私は勝手に感じましたが、他の客席では違うかもしれません笑)。

そして、大谷選手も松井選手同様で、人格面においては全く否定をする余地がない点も大きいですよね。「稀に見る紳士である」と定評のヤンキース16代目キャプテン・ジャッジ選手が他チームのファンに好かれざるを得ないのと同様で、ヤンキース以外の選手を憎むことに快楽を覚えるニューヨーカーらが素直に大谷選手の虜となってしまっています。

前回のヤンキースタジアム訪問記でも取り上げたとおりですが、もはやヤンキースを見に来たのではなく、大谷選手を見に来た人らが大量発生をしていた異常事態が発生していました。こんなことは今後二度と起きないのではないでしょうか。

おまけ:時にはニューヨーカーならではのセンスフルなブーイングも!

大谷選手といえば、先日まで彼の女房役を務めていたローガン・オホッピー選手も、じつは幼少期からのヤンキースファンだったのはご存知でしょうか。

〇Logan O’Hoppe once CAUGHT a HOMER at Yankee Stadium and THREW IT BACK!

それもそう、彼も生粋のニューヨーカーで、ブロンクスからすぐ東にあるロングアイランド(ニューヨーク州南東部に浮かぶ島)出身なのです。そんな彼が選手としてヤンキースタジアムデビューを果たした際には、ヤンキースファンのロングアイランド勢が総出で彼を応援していました。9イニング間、私の後ろから

「オホッピー、お前はニューヨークの誇りダァ」
「エンゼルスは嫌いだけどオホッピーは好きダァ」
「お前ら、オホッピーはジモティだぞ応援しろヤァ」

と、これでもかという、濃い濃いロングアイランド方言で永遠と聞かされて笑いが止まりませんでした。挙句には別のファンが「うるせえお前、アイランダーズ負けてるぞ!」と絡み始め、二人が笑い転げながら野次を交換する合間に試合終了しました。めでたしめでたし。意外と行ってみると面白い人もいますよ、ニューヨーク。

※ニューヨーク・アイランダーズはロングアイランドを本拠地としたアイスホッケーのチーム


プロフィール
KZilla(ケジラ)
ニューヨーク・ヤンキース、およびMLBの魅力をTwitter、note、ラジオなどで発信し続ける注目の野球アナリスト。ニューヨーク育ちの英語力を活かした情報収集力と分析力は、コアなファンからも高い評価を得ている。NPBはヤクルトスワローズの大ファンだが、今シーズンはヤンキース、スワローズともになかなか調子が上がって来ないのでヤキモキした日々を過ごしている。Twitter:@TokYorkYankees、note:KZilla|note